金属の硬さ一覧をやさしく解説:試験法・換算・材料別まとめ

アルミニウム合金

金属の硬さ一覧をやさしく解説:試験法・換算・材料別まとめ

「60HRC のハイス鋼」「200HV のステンレス」——金属の硬さを表す単位はいくつかあり、どれを見ればよいのか迷うことがあります。このページでは、硬さ試験の種類と読み方・主要な硬さ換算表・材料ごとの代表的な硬さ値を一覧でわかりやすく解説します。

① 硬さ試験の種類と読み方

代表的な4つの硬さ試験法

金属の硬さを測る方法は複数あり、それぞれ適した材料・用途が異なります。

ビッカース硬さ(HV)
JIS Z 2244 / ISO 6507

正四角錐ダイヤモンド圧子を一定荷重で押し込み、くぼみの対角線長さから算出。最も汎用的で薄板・表面処理層の測定に向く。荷重によりHV・HV0.1等と表記。

ロックウェル硬さ(HR)
JIS Z 2245 / ISO 6508

圧子の押し込み深さで硬さを判定。スケールによりHRC(ダイヤ圧子・工具鋼向け)、HRB(鋼球・軟鋼向け)等がある。現場での迅速測定に最適。

ブリネル硬さ(HBW)
JIS Z 2243 / ISO 6506

超硬球を一定荷重で押し込み、くぼみ面積から算出。鋳鉄・鋳造品・鍛造素材の粗い表面でも安定して測定できる。旧記号 HB。

ショア硬さ(HS)
JIS Z 2246 / ISO 1648

ダイヤモンド先端のハンマーを落下させ、跳ね返り高さで判定。大型部品・圧延ロールなど現場での非破壊測定に適する。

マイクロビッカース(HMV)
JIS Z 2244(低荷重域)

HV と同原理で荷重を 1 gf〜数百 gf に下げたもの。めっき層・窒化層・DED積層部など薄い硬化層の断面硬さ測定に使用。

ヌープ硬さ(HK)
ASTM E384

細長いひし形圧子を使用。非常に薄い層やセラミックス、炭化物単体粒子の測定に用いる。マイクロビッカースより浅いくぼみで測定できる。

ビッカース(HV) 荷重 136° 対角線 d を測定 正四角錐ダイヤモンド圧子 頂角 136°|荷重÷くぼみ面積 薄板・表面層・汎用 ロックウェル(HRC) 荷重 120° 深さ h 押し込み深さ h を測定 ダイヤモンド円錐圧子 頂角 120°|深さで判定・迅速 工具鋼・焼入れ材 ブリネル(HBW) 荷重 くぼみ径 d を測定 超硬合金球(WC-Co) 荷重÷球面くぼみ面積 鋳鉄・鍛造素材 ショア(HS) 落下 h₀ 跳ね 返り h₁ HS ∝ h₁ / h₀ ダイヤ先端ハンマー 落下・跳ね返り比で判定 大型部品・ロール 各試験法のくぼみ形状(断面)比較 HV:V字形 HRC:細い V 字形(深い) HBW:浅い皿形(弧状) HS:ほぼ目視不可(微小)

図1:代表的な硬さ試験法の圧子形状・測定原理・くぼみ断面の比較

② 硬さ換算表(HV・HRC・HBW・HS 対応)

よく使う硬さ換算の早見表

⚠ 注意:硬さ換算値は材料(鋼種・組成・組織)によって誤差が生じます。以下の値は鋼材(炭素鋼・合金鋼)を対象とした目安値です。JIS Z 2271 / ISO 18265 に換算表が規定されています。
硬さレベル HV(ビッカース) HRC(ロックウェルC) HBW(ブリネル) HS(ショア) 引張強さ目安(MPa)
非常に軟らかい80〜100—(測定不可)76〜95≈ 260〜320
軟鋼・焼なまし材120〜160114〜152≈ 16〜22≈ 390〜520
調質鋼(中程度)200〜250≈ 14〜22190〜238≈ 27〜33≈ 650〜820
調質鋼(高強度)300〜350≈ 29〜36285〜332≈ 38〜45≈ 960〜1130
焼入れ鋼(中硬さ)400〜450≈ 40〜46379〜426≈ 50〜57≈ 1270〜1430
焼入れ鋼(高硬さ)500〜600≈ 49〜56471〜560≈ 62〜72≈ 1580〜1900
工具鋼・ダイス鋼630〜700≈ 58〜62—(測定困難)≈ 74〜80
ハイス・焼入れ工具鋼750〜870≈ 63〜67≈ 82〜88
表面硬化層・炭化物900〜3000参考値のみ
💡 HV と引張強さの簡易換算式(鋼材の目安)

引張強さ(MPa)≈ HV × 3.3(200〜400HV の範囲で概算)

※ 鋼種・熱処理状態によって誤差が大きくなります。正確な値は引張試験で確認してください。

図2:硬さ換算グラフ(HV と HRC の対応、鋼材基準)

③ 金属・材料別の代表的な硬さ一覧

鉄鋼材料の硬さ

材料・状態 JIS記号例 HV 目安 HRC 目安 HBW 目安
軟鋼(焼なまし)SS400 / S10C110〜160105〜152
一般構造用圧延鋼SS400120〜160114〜152
機械構造用炭素鋼(焼なまし)S45C160〜200152〜190
クロムモリブデン鋼(調質・30HRC)SCM435285〜33028〜34271〜314
ニッケルクロムモリブデン鋼(調質)SNCM439293〜35230〜36280〜335
高張力鋼(HT780)HT780≈ 250〜290≈ 23〜29238〜276
ばね鋼(調質)SUP9 / SUP12380〜44038〜45360〜420
軸受鋼(焼入れ焼戻し後)SUJ2700〜80061〜65
炭素工具鋼(焼入れ後)SK85(旧SK5)650〜76058〜63
ダイス鋼(焼入れ焼戻し後)SKD11640〜72058〜62
熱間ダイス鋼SKD61430〜52044〜51
ハイス鋼(焼入れ・3回焼戻し後)SKH51(M2相当)780〜87063〜66
ハイス鋼(Co添加)SKH55(M35相当)820〜90065〜67
粉末ハイスHAP40 等900〜100067〜70

ステンレス鋼の硬さ

材料・状態 JIS記号 HV 目安 HBW 目安 備考
オーステナイト系(固溶化処理)SUS304170〜200160〜190加工硬化で上昇
オーステナイト系(固溶化処理)SUS316170〜200160〜190Mo添加・耐食性向上
フェライト系(焼なまし)SUS430170〜200162〜190磁性あり
二相系(焼なまし)SUS329J3L270〜310257〜295高強度・耐食
マルテンサイト系(焼入れ焼戻し)SUS420J2400〜550380〜520刃物・ポンプ部品
析出硬化系(時効処理後)SUS630(17-4PH)350〜450333〜428高強度ステンレス

非鉄金属・合金の硬さ

材料・状態 JIS記号例 HV 目安 HBW 目安 備考
純アルミ(軟質)A1050-O20〜3019〜28最軟質のアルミ
アルミ合金(時効硬化)A2017-T4(ジュラルミン)100〜12095〜114航空機用
アルミ合金(時効硬化)A7075-T6(超ジュラルミン)170〜190162〜180高強度アルミ
純銅(焼なまし)C1100-O50〜7048〜66電気配線
黄銅(1/2硬)C2700-1/2H110〜150105〜143水道部品・精密加工
アルミ青銅(鋳造)C6161 / CAC702140〜200133〜190金型・スライド・軸受
ベリリウム銅(時効硬化後)C1720-TH340〜400323〜380高強度銅合金・バネ
純チタン(焼なまし)TP340(Grade 1)120〜160114〜152医療・化学
チタン合金Ti-6Al-4V(ELI)310〜380295〜362航空宇宙・インプラント
純マグネシウム合金AZ31B50〜8048〜76軽量部品
ニッケル基超合金Inconel 625230〜290218〜276ジェットエンジン
鉛(純)3〜53〜5非常に軟らかい

表面処理・硬質層・特殊材料の硬さ

材料・処理 硬さ(HV) 備考
浸炭焼入れ層(表面)700〜800SCM415 等、C 0.8〜1.0% 表面層
窒化処理層(鋼)850〜1100SACM645 ガス窒化後表面
DLC(ダイヤモンドライクカーボン)1500〜3500成膜条件によって大きく変動
TiN コーティング2000〜2500PVDコーティング・工具刃先
TiAlN コーティング2800〜3500高速切削・耐熱性向上
溶融亜鉛めっき層(η 相)50〜70最外層・軟質
超硬合金(WC-Co)1300〜1800切削工具・金型インサート(HRA 85〜94)
炭化タングステン(WC)単体≈ 2400超硬合金の主成分
炭化バナジウム(VC)≈ 2800粉末ハイス中の MC 型炭化物
立方晶窒化ホウ素(cBN)≈ 4000〜5000焼入れ鋼の旋削工具
ダイヤモンド(天然・人工)8000〜10000自然界最硬物質・圧子材料

図3:材料別の代表的な硬さ(HV)比較グラフ

④ 硬さと強さ・靭性のトレードオフ

硬くするほど脆くなる関係

鋼材では一般に、硬さ(耐摩耗性)と靭性(粘り強さ)はトレードオフの関係にあります。高硬度材料は衝撃や曲げに弱く、金型・工具では適切な硬さを選ぶことが重要です。

✂ 切削工具(最高硬度重視)

63〜68HRC(780〜870HV)が標準。ハイス・超硬合金・PVDコーティングを組み合わせて耐摩耗性を最大化します。

🔨 プレス金型(バランス重視)

SKD11 で 58〜62HRC(630〜720HV)が一般的。硬すぎると欠けが発生するため、焼戻し温度で硬さを調整します。

⚙ 機械構造部品(靭性重視)

SCM440 調質で 28〜36HRC(280〜340HV)程度。高強度と靭性を両立した調質(焼入れ+高温焼戻し)状態で使用します。

⚽ 軸受・ボール(高面圧対応)

SUJ2 で 61〜65HRC(700〜800HV)。転がり疲れ寿命は硬さ・残留応力・清浄度の三要素に依存します。

💫 表面硬化(表面だけ硬く)

浸炭・窒化・高周波焼入れで表面のみ 700〜1100HV に硬化。内部の靭性を保ちながら耐摩耗性を付加できます。

📋 銅合金金型材(適度な硬さ)

アルミ青銅(CAC702等)で 140〜200HV。鉄よりは低いですが、プレス金型のスライド・コア材として自己潤滑性・耐焼付性で優れます。

⑤ 硬さ試験の選び方:JIS・ISO 規格対応表

試験法 JIS 規格 ISO 規格 ASTM 規格 適した材料・硬さ範囲
ビッカース(HV)JIS Z 2244ISO 6507-1〜4ASTM E92全硬さ域・薄板・表面層・多用途
ロックウェル(HRC/HRB等)JIS Z 2245ISO 6508-1〜3ASTM E18HRC:焼入れ鋼 / HRB:軟鋼・非鉄
ブリネル(HBW)JIS Z 2243ISO 6506-1〜4ASTM E10鋳鉄・鍛造素材・20〜650HV
ショア(HS)JIS Z 2246ISO 1648ASTM D2240大型部品・圧延ロール・非破壊
ヌープ(HK)ISO 4545ASTM E384薄膜・セラミックス・炭化物
硬さ換算JIS Z 2271ISO 18265ASTM E140HV/HRC/HBW/HS 相互換算

⑥ HV・HRC・HBW を混同すると何が起きるか:単位表記の重要性

「数値だけ」では意味が伝わらない

硬さの数値は、単位記号(HV・HRC・HBW)を省略すると全く別の意味になってしまいます。たとえば「硬さ 60」という表記だけでは、60HRC(焼入れ工具鋼レベル)なのか、60HBW(非常に軟らかい金属)なのかが判別できません。現場での誤認識は、製品不具合・工具破損・検収トラブルに直結します。

⛔ 混同すると起きる典型的な問題
  • 「60HRC」を「60HV」と読み違え、非常に軟らかい材料と判断してしまう
  • 「200HBW」を「200HV」と混用し、換算なしに引張強さを計算して大きな誤差を生む
  • 図面の硬さ指示を単位なしで転記し、発注先・下請けで別スケールで測定・評価される
  • 硬さ試験報告書の単位を確認せず、異なるスケールの数値を同じ軸で比較してしまう

同じ硬さを異なるスケールで表したときの数値の違い

下表は、ほぼ同等の硬さを各スケールで表示したときの数値の差を示します。スケールによって数値が大きく異なるため、単位なしの数値の比較は危険です。

硬さレベルの目安 HV HRC HBW 単位を省略した場合の誤認リスク
調質鋼(中程度)30030285「30」だけでは 30HRC(中硬さ)か 30HBW(非常に軟)か不明
焼入れ鋼(高硬さ)55053519「53」だけでは 53HRC か 53HBW か判別不能(硬さがまるで違う)
工具鋼・ダイス鋼66059「660」と「59」は同じ材料なのに数値が 10 倍以上異なる
ハイス鋼83065「65」では 65HRC(非常に硬い)と 65HV(超軟質)で真逆の評価になる
📌 正しい硬さ表記の原則
  • 必ず単位記号を数値に付ける:660HV59HRC285HBW
  • ビッカース試験で荷重条件を明示する場合:HV 0.3(0.3 kgf荷重)、10HV(10 kgf荷重)
  • 図面・仕様書・報告書への転記時は必ずスケール名を確認してから記載する
  • 異なるスケールの値を比較する際は必ず ISO 18265 / JIS Z 2271 の換算表を経由する

⑦ 試験荷重で硬さ値がずれる:荷重依存性に注意

なぜ荷重が違うと値が変わるのか

ビッカース硬さ(HV)は理論上、荷重が異なっても同じ値を示す「荷重非依存性」を持ちます。しかし実際の金属では、荷重が小さいほどくぼみも小さくなり、表面酸化膜・残留応力・不均一な組織などの影響を受けやすくなります。このため、低荷重(マイクロビッカース域)と高荷重(通常ビッカース域)では、同じ材料でも測定値に差が生じることがあります。この現象を 「不均一硬化現象(ISE: Indentation Size Effect)」 と呼びます。

⚠ 実用上の注意:表面処理層(窒化・めっき・DED積層など)の硬さを測定する際、荷重が大きすぎると下地の影響を受けた値が出ます。一般にくぼみ深さが硬化層厚さの 1/10 以下になる荷重を選ぶことが推奨されています(JIS Z 2244 附属書参照)。

荷重と測定値のずれ:実例

材料・状態 HV 0.1(低荷重) HV 1(中荷重) 10HV(高荷重) ずれの主な原因
SKD11(焼入れ焼戻し)680〜720660〜690640〜670ISE・測定ばらつき
SACM645 窒化層(表面)950〜1100850〜950700〜800(下地混入)硬化層が薄く下地の影響大
DLC コーティング(2〜5 µm)1800〜25001200〜1800(膜+下地混入)測定不適(下地ほぼ支配)膜厚に対して荷重過大
アルミ青銅 DED 積層部160〜210150〜200145〜195組織不均一・気孔の影響
SS400(フェライト+パーライト)130〜170125〜160120〜155フェライト・パーライト個別への打込
荷重とくぼみの関係:窒化鋼の断面イメージ 窒化硬化層(例:950〜1100HV、厚さ 0.1〜0.3 mm) 母材(例:300〜350HV) HV 0.1 層内のみ測定 ✔ 正確 HV 1 層+母材混入 ⚠ 低め 10HV 母材が支配 ✕ 不適切 くぼみ深さは硬化層厚の 1/10 以下に抑える(推奨)

図4:試験荷重と測定範囲の関係。荷重が大きすぎると下地の影響を受けた値になる

💡 荷重選定の実務ポイント
  • 薄い硬化層(窒化・DLC・めっき)の測定 → HV 0.025〜HV 0.3(マイクロビッカース)
  • 浸炭層・工具鋼の硬さ管理 → HV1〜HV10(通常ビッカース)
  • 鋳鉄・鍛造素材の品質確認 → HBW(高荷重・広い測定面積で組織の平均を取る)
  • 複数荷重で測定してばらつきを確認することで、ISE の有無・組織不均一を把握できる

⑧ 焼入れ鋼と非鉄金属で硬さを比較するときの注意点

換算式は「鋼材専用」である

JIS Z 2271 / ISO 18265 の硬さ換算表と「HV × 3.3 ≈ 引張強さ(MPa)」の近似式は、炭素鋼・合金鋼を対象に導出されたものです。アルミ合金・銅合金・チタン合金などの非鉄金属にそのまま適用すると、引張強さを大幅に過大評価または過小評価します。

材料 HV 実測値 HV×3.3 で計算した引張強さ(MPa) 実際の引張強さ(MPa) 誤差の傾向
SCM440(調質)310≈ 1023≈ 980〜1130概ね良好
A7075-T6(アルミ合金)180≈ 594(過大)≈ 500〜570過大評価
CAC702(アルミ青銅 鋳造)170≈ 561(過大)≈ 440〜590組成・状態依存で大きな誤差
Ti-6Al-4V(焼なまし)350≈ 1155(過大)≈ 895〜970過大評価(比弾性率の違い)
Inconel 625260≈ 858(過大)≈ 827〜896比較的近いが過大傾向

HRC スケールが非鉄に使えない理由

HRC(ロックウェル C スケール)は 20〜70HRC の範囲を有効測定域とし、主に焼入れ鋼を対象に設計されています。アルミ合金(20〜190HV 程度)・銅合金(50〜400HV 程度)・純チタン(120〜160HV 程度)のような低〜中硬さの非鉄金属では、HRC スケールの下限以下に相当するため測定が成立しません。非鉄金属の硬さ管理には HV・HBW・HRB(ロックウェル B スケール) を使います。

✅ 焼入れ鋼に使える試験法

HRC(20HRC 以上)・HV・HBW(650HV 以下の範囲)。工具鋼の管理は現場では HRC が主流。

📌 非鉄金属に使える試験法

HV・HBW・HRB が基本。アルミ薄板・銅合金薄板は HV(低荷重)またはHRB。鋳造品は HBW が安定。

⚠ 引張強さ換算の注意

非鉄への「HV × 3.3」適用は誤差大。各材料ごとの換算係数を確認するか、直接引張試験で取得すること。

🔰 DED 積層部の硬さ測定

DEDで積層した銅合金・Co基合金では、冷却速度・熱サイクルで組織が変わり硬さもロット・部位で異なる。断面マッピングで評価することを推奨。

⑨ 図面の硬さ指定を正しく読む:表記ルールと実務のポイント

JIS B 0031 / JIS B 0600 に基づく図面表記

機械部品の図面では、熱処理・表面処理の仕様とともに硬さ指定が記載されます。JIS B 0031(表面性状の図示方法)や各社の図面標準によって表記形式は異なりますが、基本的なパターンは共通しています。

図面表記の例(代表パターン)
58〜62HRC ← スケール名+範囲指定(最も一般的な工具鋼指定)
600HV 以上 ← 下限のみ指定(最低硬さの保証)
浸炭焼入れ 表面 58〜62HRC、芯部 30〜40HRC ← 表面と芯部を別々に指定
窒化処理 900HV 以上(表面 0.1mm) ← 硬さ+硬化深さ指定
170〜220HBW ← 鋳鉄・鍛造素材の素材硬さ管理に使用
焼入焼戻し 28〜34HRC ← 調質鋼(SCM440等)の調質範囲指定

図面の硬さ指定を読むときのチェックポイント

確認項目 読み取るべき内容 見落としやすいポイント
スケール名 HRC・HV・HBW・HRBのどれか 「HB」はHBW(旧JIS表記)と同義。「HR」だけではスケールが不明
指定方式 範囲指定(○〜○)か、下限のみ(○以上)か 上限なし指定では硬くなりすぎによる脆化に注意が必要
測定箇所 表面・芯部・断面の位置指定があるか 表面処理品では「表面」と「芯部」の指定が別々になることが多い
硬化深さ 有効硬化深さ(Ds)または全硬化深さの指定があるか 「550HV 以上の深さ」が有効硬化深さの定義(JIS G 0557)
熱処理プロセス 浸炭・窒化・高周波・調質など工程の明示 プロセス指定がない場合は達成手段が問われないが、材料選定で制約あり
測定荷重 HV の場合は荷重が明示されているか(HV0.3 など) 薄い表面処理層では荷重指定がないと過小・過大な値が出る

よくある図面表記の誤解と正しい解釈

図面の表記 誤った解釈 正しい解釈
硬さ 60(単位なし) 60HRC と判断する スケール不明。図面の一般注記・材料欄を確認し、設計者に問い合わせる
58〜62HRC(SKD11) 580〜620HV と換算して管理する 換算値は 638〜746HV 程度(換算表を使う。単純比例換算は不可)
200HB(旧表記) 200HV と同じと判断する HB(旧 JIS)= HBW(現行 JIS)。HV とは測定原理が異なり値も異なる(200HBW ≒ 210HV)
表面 900HV 以上(窒化品) 高荷重(10HV)で測定する 窒化層は薄いため低荷重(0.1〜0.3HV)で測定。HV10 では下地の影響が大
28〜34HRC(SCM440 調質) 調質後の硬さ範囲として明確。HV 換算では概ね 272〜321HV
📐 有効硬化深さの定義(JIS G 0557)

浸炭焼入れにおける有効硬化深さ(Ds)は「550HV(≒ 52HRC)以上の層の深さ」として定義されています。窒化処理の場合は500HV 以上の深さが基準となることが多く(JIS G 0562 参照)、図面に「DS○○mm 以上」と記載されます。

まとめ:金属の硬さで押さえておきたいこと

  • 硬さ試験には HV・HRC・HBW・HS など複数あり、材料や用途によって使い分ける
  • HV(ビッカース)は最も汎用的で、薄板・表面処理層・広い硬さ域をカバーする
  • HRC は焼入れ工具鋼・金型鋼の管理に広く使われ、58〜68HRC が工具鋼の一般的な範囲
  • 単位記号(HV・HRC・HBW)を省略すると全く異なる意味になる:必ずスケール名を付けて表記する
  • 試験荷重が小さいほど ISE(押し込みサイズ効果)の影響を受けやすい。薄い硬化層には低荷重を使う
  • 「HV × 3.3 ≈ 引張強さ」換算は鋼材専用:アルミ合金・銅合金・チタン合金への適用は過大評価になるため不可
  • HRC スケールは非鉄金属の測定域外。非鉄には HV・HBW・HRB を使う
  • 図面の硬さ指定では、スケール名・指定方式(範囲 or 下限)・測定箇所・荷重条件を必ず確認する
  • 「HB」は旧 JIS 表記で現行の HBW と同義。HV との混用に注意する
  • 炭素鋼・合金鋼は 110〜900HV 超と幅広く、熱処理状態で大きく変わる
  • 超硬合金は 1300〜1800HV、DLC は 1500〜3500 と工具鋼をはるかに超える硬さを持つ
  • 硬さと靭性はトレードオフ:用途に応じた「適切な硬さ」の選定が材料設計の核心
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