ステライト(コバルト基耐摩耗合金)をやさしく解説:超硬工具でも削れない材料の正体と使いどころ

非鉄金属

ステライト(Stellite)はケンナメタル社の登録商標で、「コバルト基耐摩耗合金」の代名詞として業界で広く定着しています。超硬工具でも加工が難しいほどの硬さと、高温環境への強さを兼ね備えるのがこの材料の最大の特徴です。この記事では、ステライトの組成・グレード別特性・耐摩耗メカニズム・用途・規格をわかりやすく解説します。

ステライトの名称体系と組成の読み方

ステライトのグレード番号体系と基本組成 【グレード記号の読み方】 Stellite 6 Stellite®(商標) Co基耐摩耗合金の 代名詞(ケンナメタル社) グレード番号 数字が大きいほど 硬度↑・靭性↓傾向 【基本組成(Co基合金)】 Co(コバルト):残部(45〜65%) Cr(クロム) :25〜33%(耐食+炭化物) W(タングステン):0〜15%(高温強度) C(炭素)  :0.1〜3.3%(炭化物形成) Mo・Ni・Fe:少量(グレードにより追加) → Cr₇C₃・WC等の硬質炭化物が   Co基地中に分散する構造が特徴

「ステライト」はケンナメタル社の登録商標ですが、コバルト基耐摩耗合金全般の総称として業界で使われています。競合他社の同種材料としてはデロロ(Deloro)、トリバロイ(Tribaloy)、ハイネス(Haynes)合金などがあります。一般名称は「コバルト基硬化合金(Cobalt-base Hard-facing Alloy)」または「コバルト基超合金(Co-base Superalloy)」と呼ばれます。

主要グレードの成分・特性比較

グレードC%Cr%W%硬さ(HRC)特徴・用途
Stellite 1約2.5約30約13約52〜58HRC最高硬度グレード。耐摩耗最優先(スリーブ・シート面)。靭性は低く衝撃厳禁。
Stellite 6約1.2約28約4.5約38〜43HRC最もポピュラーな汎用グレード。耐摩耗・耐食・耐熱のバランス型。バルブシート・ポンプ部品。
Stellite 12約1.4約29約8.3約44〜48HRCStellite 6と1の中間。W量多くアブレシブ摩耗に強い。切削工具・ノズル。
Stellite 21約0.25約27約32〜38HRC低炭素・Mo添加グレード。靭性と耐食性が高く、医療インプラント(人工股関節)に採用。溶接性に優れる。
Stellite 31(X-40)約0.5約25約7.5約30〜35HRC航空機ガスタービン用。高温クリープ強度に特化。タービンブレード・ベーン。
Tribaloy T-400約0.08約8.5約54〜58HRC(Laves相)炭化物でなくLaves相(Co₃Mo₂Si)で硬化するタイプ。無給油環境でのガス圧縮機・弁座。

※ 硬さは代表参考値。肉盛溶接・鋳造・HIPなど製法によって変わります。

核心概念:「炭化物分散強化」と摩耗・熱への強さの正体

ステライトを理解するには、Co基地(マトリクス)の中に硬質炭化物粒子が散りばめられた構造を想像するとわかりやすいです。炭化物(Cr₇C₃・M₆C等)の硬さは1,400〜2,000HVにも達し、これが相手材の研削に対してバリアになります。一方でCo基地そのものは靭性が高く、炭化物の欠落(チッピング)を受け止める役割を果たします。

ステライトの組織概念と耐摩耗メカニズム Co基地(マトリクス) 硬質炭化物粒子(1,400〜2,000HV) が靭性のあるCo基地に分散 ① 耐アブレシブ摩耗 硬質炭化物が砂・スラグ等の 研削粒子に対してバリアになる ② 耐高温摩耗・酸化 Crが高温でCr₂O₃保護皮膜を形成。 800℃超でも硬さ低下が小さい。 ③ 耐食性 Cr25〜33%の不動態皮膜で 酸・アルカリ・海水に強い。 ④ W添加の効果 WがM₆C炭化物を形成し 高温強度・切削摩耗抵抗を向上。
ステライトの実務的な選定基準:
摩耗が研削(アブレシブ)主体:Stellite 1/12 → 硬さ優先
摩耗+腐食の複合環境(バルブシート・ポンプ):汎用グレードStelite 6
高温クリープが支配的(ガスタービン):Stellite 31/X-40
靭性と生体適合性が必要(医療):低炭素のStelite 21
無給油・ドライ摺動:Laves相で硬化するTribaloy T-400

ポイント:「硬さ(HRC)を上げると靭性が下がる」のはステライトも例外ではない。衝撃荷重がある場合はStelite 6/21など低炭素グレードを選ぶこと。

他の耐摩耗材料との使い分け

Stellite 6(Co基) 高速度鋼(SKH51) 超硬合金(WC-Co) SUS316L(ステンレス) Ni基合金(Inconel 625)
材料耐摩耗性耐熱性(使用限界温度)耐食性靭性溶接・肉盛適性主な選定場面
Stellite 6◎ 〜800℃超◎ 肉盛溶接・溶射バルブシート・ポンプ・タービンシュラウド
高速度鋼 SKH51○ 〜600℃△ 錆びる△ 溶接困難切削工具・金型・刃物(靭性必要)
超硬合金 WC-Co◎◎ 最高硬度○ 〜500℃(酸化注意)✕ 脆性大✕ 溶接不可・ろう付のみドリル・フライス・耐摩耗チップ(衝撃なし)
SUS316L○ 〜870℃(断続使用)耐食主体で摩耗が軽微な化学装置全般
Inconel 625◎ 〜1,000℃高温耐食(海洋・石油・原子力)で摩耗が軽微
⚠️ ステライトの加工上の注意 焼結品・鋳造品はHRC40超となり、通常のハイス・超硬工具では加工が非常に困難です。研削加工(CBN砥石)か放電加工が基本です。肉盛溶接後の仕上げは低速・豊富なクーラント・シャープなCBNチップを使用してください。また溶接時の入熱管理が不十分だと割れリスクがあります(特に高炭素グレードのStelite 1)。

JIS・海外規格の対応

規格体系規格番号・分類対応・特徴
JIS(日本)JIS G 5123(コバルト基耐熱合金鋳造品)
JIS H 4553(コバルト基合金展伸材)
ステライトそのものの統一JIS規格はなく、Co基耐熱合金として分類。肉盛溶接材料はJIS Z 3251(硬化肉盛溶接材料)に分類されることが多い。
ASTM(米国)ASTM F75(鋳造Co-Cr-Mo合金・医療)
ASTM F799(鍛造Co-Cr-Mo)
AMS 5387(Stellite 31相当)
医療用Co-Cr-MoはASTM F75/F799で規格化。航空用はAMS規格(AMS 5383〜5387等)が実質標準。
ISO(国際)ISO 5832-4(外科インプラント用Co-Cr-Mo)
ISO 5832-12(鍛造Co-Cr-Mo)
医療インプラント(人工股関節・膝関節)のCo-Cr-Mo合金はISO 5832シリーズで厳密に規定。
EN / DIN(欧州)EN ISO 5832-4
DIN 2.4978(Stellite 6相当 EN記号)
欧州での材料番号はDIN/ENの数値材料番号(2.XXXX系)で管理。調達時は番号確認が必要。
その他商標品Tribaloy(ケンナメタル)
Deloro(Oerlikon)
Haynes 25(L-605)
Tribaloyはレーベス相硬化で無給油環境向け。Haynes 25(L-605)は航空宇宙用高温強度特化。いずれもCo基合金。

産業分野別の用途

⚙️ バルブ・シート面(石油・ガス)

ゲートバルブ・グローブバルブのシート面・弁体にStelite 6の肉盛溶接を施工。高温・高圧・腐食性流体のシール面でも金属間摩耗(ゴーリング)を防ぎます。石油精製・LNG設備でデファクト標準の仕様です。

✈ ガスタービン・航空機エンジン

タービンブレードのシュラウド(チップ部)への肉盛・ベーンセグメントにStelite 6やStelite 31を使用。800℃超の燃焼ガス中でも摩耗しないため「アブレーダブルシール」材として機能します。

💉 医療インプラント

人工股関節・人工膝関節の摺動面にStelite 21(Co-Cr-Mo低炭素グレード)を採用。生体液中での摩耗粒子量が少なく、金属アレルギーリスクが低い。ISO 5832-4/12準拠品が世界標準。

🔧 ポンプ・スリーブ(化学装置)

スラリーポンプのインペラ・ライナー・スリーブにStelite 1鋳造品または溶射品を採用。砂・鉱石・触媒粒子を含む研削性スラリーに対して寿命が炭素鋼・SUSの5〜20倍に達するケースがあります。

✂ チェーンソー・木工刃物

チェーンソーのチップ・木工カッターにステライト系硬化肉盛を施工。木材中の砂・石英による摩耗と衝撃を同時に受けるため、靭性のある低炭素グレード(Stellite 6)の肉盛が適合します。

⚡ 原子力・核燃料設備

原子炉内の制御棒ガイド・弁シートにステライトを使用。放射線環境でも組織が安定し、高温水・ほう酸水溶液中での耐食性に優れます。Co-60生成による放射化の問題からNi基合金への代替も検討されています。

まとめ

ステライトで押さえておきたいこと

ステライトは切削工具ではなく「耐摩耗肉盛材・高温摺動材」として使われる材料です。最も重要なのは「炭化物分散強化」という組織の仕組みです。Co基地の靭性と炭化物の硬さを同時に持つことで、超硬合金(硬いが脆い)と高速度鋼(粘いが800℃で軟化する)のどちらでもカバーできない「高温+摩耗+腐食の三重苦」をまとめて解決できます。材料選定では「硬さ」だけでなく「摩耗モード」「使用温度」「腐食環境」を分けて整理することが大切です。

ステライト, Stellite, コバルト基合金, 耐摩耗合金, 炭化物分散強化, 肉盛溶接, バルブシート, 高温摺動, Tribaloy, JIS G 5123, ASTM F75

コメント