アルミニウム青銅をやさしく解説:海と産業が信頼する銅合金の特性と選定基準

銅合金

CAC702・C95400・CuAl10Fe5Ni5——これらはいずれもアルミニウム青銅の規格記号です。船舶のプロペラ、石油プラントのバルブ、産業機械の歯車など、過酷な環境で長期間使われる部品に広く採用されています。この記事では、アルミニウム青銅の組成・強度・耐海水性のメカニズム・他の銅合金との比較・現場での選定ポイントを解説します。

組成:「銅+アルミ」だけではない多元合金

アルミニウム青銅の主成分は銅(Cu)で、アルミニウム(Al)を5〜12%加えるのが基本です。実際の製品グレードには、さらに鉄(Fe)・ニッケル(Ni)・マンガン(Mn)が加わった多元合金が多く使われています。

代表的な組成(C95400 / CAC702系)と各元素の役割 代表的な組成比(目安) 銅 (Cu) 約83% Al 9% Fe 4% Ni 3% Mn ※ 合金種別により構成比は変わります CAC701(単純Al-Cu系)〜CAC703(Ni・Fe・Mn全添加)まで幅あり Al添加量と組織の変化 Al 5〜8% 単相(α相) 加工しやすい 展伸材に向く Al 9〜11% 二相(α+β相) 強度・硬さ↑↑ 船舶・産業向け

Al量が5〜8%だと単相(α相)で加工しやすい組織になります。9〜11%になると二相(α+β相)になって強度と硬さが大きく上がります。船舶部品や産業機械向けの高強度グレードはほぼこの二相域です。

強度:銅合金でありながら鋼材と同程度

アルミニウム青銅の引張強度は600〜800 MPaにもなります。硬さもHB 150〜220程度で、普通の鋼材(SS400: HB 120程度)と同等以上です。さらに低温脆性がないため、寒冷地や液化ガス設備にも使えます。

アルミニウム青銅(CAC702) りん青銅 ベリリウム銅 砲金(スズ青銅)

各項目は相対評価(5点満点)。コストは低いほど経済的(スコアが高い=安価)

ベリリウム銅ではなくアルミニウム青銅が選ばれる理由
ベリリウム銅は強度が飛び抜けていますが、加工時に有害な粉塵が発生するリスクがあり取り扱いに厳しい管理が必要です。コストも高い。アルミニウム青銅は安全に加工でき価格も現実的で、強さ・安全性・コストのバランスで選ばれます。

なぜ海水に強いのか:3つの耐食メカニズム

アルミニウム青銅が海水に強い3つの理由 ① Al₂O₃保護皮膜 表面に酸化Al皮膜が 自然形成されます 塩水・酸・アルカリから 内部を守るバリアになります アルミ単体と同様の発想 ② 脱亜鉛腐食なし 真鍮は海水中で亜鉛だけが 溶け出す「脱亜鉛腐食」が発生 アルミニウム青銅は亜鉛を 含まないため問題ゼロです 真鍮との決定的な差 ③ エロージョン耐性 流れによる侵食(エロージョン)と 腐食の複合ダメージに強いです ポンプ・バルブ内部など 流速の速い場所で威力を発揮します プロペラ採用の大きな理由
「非火花性」という隠れた特性
アルミニウム青銅は衝撃・摩擦による火花が発生しにくい「非火花性」を持ちます。石油・ガスプラントのような可燃性雰囲気での使用が可能で、これがバルブ・ポンプへの採用理由のひとつです。

現場で困る3つの選定ポイント

場面① CAC702とC95800(ニッケルアルミ青銅)どちらを選ぶか
状況船舶プロペラ用の鋳造品で、CAC702とC95800(ASTM)のどちらを選ぶか迷った。
判断軸C95800はCAC702より高Ni(約4〜5%)で耐海水腐食性が特に高い。プロペラ・船体構造など常時海水に浸かる部位はC95800が標準。バルブ・ポンプなど間欠的接触ならCAC702で十分なことが多い。
境界条件海水への常時暴露+高流速(キャビテーション発生の可能性あり)→ C95800。間欠接触・コスト重視→ CAC702が現実的な選択。
場面② 溶接時に表面が白く変色・強度低下した
状況アルミニウム青銅部品を溶接補修したところ、溶接部周辺が白く変色し、強度が低下した。
原因「脱アルミ現象」。溶接熱によりAlが優先的に酸化・蒸発し、表面にAl₂O₃が堆積するとともに母材のAl量が局所的に低下する。Al量が減るとβ相が消失し、強度が大きく下がる。
対策溶接にはAlを補充できるアルミニウム青銅系溶加棒(ERCuAl-A2など)を使用する。シールドガスにArを使い酸化を防ぐ。予熱(150〜200°C)で熱影響部を均一にする。溶接後は焼なまし(600〜650°C・空冷)で組織を均一化する。
場面③ 鋳物品に巣(鋳造欠陥)が多くて強度が出ない
状況アルミニウム青銅の鋳造品(バルブボディ)に内部欠陥が多く、水圧試験で漏れが出た。
原因アルミニウム青銅は凝固収縮が大きく、引け巣が発生しやすい。特に肉厚変化の大きい複雑形状で顕著になる。
対策鋳造設計の段階でホットスポット(厚肉部)にライザー(押し湯)を十分に配置する。HIP(熱間等方圧縮)処理で内部空孔を潰す方法も有効。重要部品はX線・超音波探傷で受入検査を必須とする。

用途別カード

⚓ 船舶・海洋

プロペラ・舵・海水ポンプ・船体貫通部品に使われます。耐海水性・キャビテーション耐性が決め手です。

🛢️ 石油・ガス

バルブ・フィッティング・ポンプ部品に使われます。非火花性により可燃性雰囲気でも安全に使用できます。

⚙️ 産業機械

歯車・軸受・ブッシュ・スラスト板に使われます。耐摩耗性と高強度が長寿命を実現します。

✈️ 防衛・航空

着陸装置・油圧部品・ブッシュ類に使われます。軽量化と信頼性の両立が求められる重要部位に採用されます。

JIS・海外規格対応表

規格代表グレードAl%特徴・用途
JIS
H 5120 / H 3250
CAC701(旧AlBC1)
CAC702(旧AlBC2)
CAC703(旧AlBC3)
8〜10%
8〜10.5%
9〜11%
CAC701:汎用鋳物。CAC702:Fe添加・高強度。CAC703:Ni・Fe添加・最高強度
ASTM
B148 / B169
C95400
C95500
C95800
10〜11.5%
10〜11.5%
8.5〜9.5%
C95400:汎用。C95500:高強度。C95800:プロペラ・海水用途に特化
EN / ISO
EN 1982
CuAl10Fe2
CuAl10Fe5Ni5
CuAl9Ni5Fe4Mn
9〜11%
9〜11%
8.5〜9.5%
CuAl10Fe5Ni5:船舶・石油用高強度。CuAl9Ni5Fe4Mn:プロペラ合金
⚠️ 規格間の微妙な差に注意 JIS CAC702・ASTM C95500・EN CuAl10Fe5Ni5はほぼ同等として扱われることが多いですが、組成の許容範囲・試験方法に微妙な違いがあります。重要部品ではミルシートとの照合が必須です。

まとめ

アルミニウム青銅で押さえておきたいこと

  • Cu+Al 5〜12%が基本。実用品はFe・Ni・Mnを加えた多元合金が多い。
  • Al 9〜11%の二相(α+β相)域で強度・硬さが大きく上がり、船舶・産業機械の主力グレードになる。
  • 海水への強さは「Al₂O₃保護皮膜」「脱亜鉛腐食なし」「エロージョン耐性」の3つが根拠。
  • 「非火花性」により石油・ガスプラントの可燃性雰囲気での使用が可能。
  • 溶接時の「脱アルミ現象」に注意。適切な溶加棒・シールドガス・予熱・焼なましが必要。
  • 鋳造欠陥(引け巣)が出やすいため、重要部品はX線・超音波探傷での受入検査を推奨。

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