金属の融点・沸点一覧をやさしく解説:高温環境で「使える金属・使えない金属」の実務判断ガイド

金属の知識
金属の融点・沸点一覧|たすいち

金属を高温で使うとき、融点だけを見て選ぶと失敗します。融点が高くても、それより低い温度でクリープ(高温変形)が始まる合金は多い。この記事では主要金属・合金の融点・沸点・実用上限温度を一覧で整理し、「アルミ金型を炭素鋼で作ったら割れた」「SUS304が500℃で変形した」といった場面をどう防ぐかを解説します。

融点・沸点とは何か:設計者が知っておくべき「温度の壁」

融点は固体から液体に変わる温度、沸点は液体から気体に変わる温度です。設計で重要なのは「融点より100〜300℃低い温度から、金属の強度が急激に低下し始める」という事実です。この強度低下によって起きる変形をクリープと呼びます。

🔑 実務ポイント:融点の50〜60%の温度(絶対温度比)を超えると、多くの金属でクリープが顕著になります。SS400(融点 約1535℃ = 1808K)なら 1808 × 0.5 ≒ 904K = 約630℃ が目安。ただし実用上は350〜500℃ですでに強度設計の前提が崩れます。

主要金属の融点・沸点・比重 一覧表

金属 元素記号 融点 (°C) 沸点 (°C) 比重
(g/cm³)
分類
タングステンW3422555519.3高融点金属
レニウムRe3186559621.0高融点金属
モリブデンMo2623463910.2高融点金属
ニオブNb247747448.6高融点金属
クロムCr190726717.2高融点金属
白金Pt1768382521.4貴金属
パラジウムPd1555296312.0貴金属
イリジウムIr2446442822.6貴金属
チタンTi166832874.51非鉄金属
鉄(純鉄)Fe153828617.87鉄鋼系
コバルトCo149529278.9鉄鋼系
ニッケルNi145527308.9非鉄金属
Cu108525628.96非鉄金属
Au1064285619.3貴金属
Ag962216210.5貴金属
アルミニウムAl66025192.70非鉄金属
マグネシウムMg65010911.74非鉄金属
亜鉛Zn4209077.13非鉄金属
Pb327174911.3非鉄金属
ビスマスBi27115649.8非鉄金属
スズSn23226027.3非鉄金属
インジウムIn15720727.3非鉄金属

代表合金の融点と実用上限温度

合金の融点は純金属より低くなることが多く、さらに「融ける温度」と「実用的に強度が保てる温度」は別物です。以下は実務で使う主要合金の目安です。

合金・材料 融点目安 (°C) 実用上限温度 (°C) 注意点
SS400(炭素鋼) 1520〜1540 ≤350 350℃超でクリープ・酸化が顕著に
S45C(調質材) 1500〜1530 ≤450 調質後の焼戻し温度以上では硬さ低下
SCM440(調質材) 1430〜1480 ≤500 Moが高温強度を補助。S45Cより約50℃高い
SUS304 1400〜1450 ≤400 400℃超でクリープ開始。ASME基準は300℃以下推奨
SUS310S(耐熱ステンレス) 1400〜1450 ≤1050 Si・Cr高含有で高温酸化に強い。長期使用は950℃以下
SKD61(熱間ダイス鋼) 1430〜1470 ≤600 H13相当。繰り返し熱負荷に強く、Al溶湯金型に最適
A1100(純アルミ) 643〜657 ≤150 150℃超で急激に軟化。アルミ合金全般に共通
A5052(Al-Mg合金) 607〜652 ≤125 Mgが添加されると融点が純Alより50℃以上低下
純チタン(Grade 2) 1668 ≤315 酸化・水素脆化が問題になる前の上限。Ti-6Al-4Vは430℃程度
共晶はんだ(Sn63/Pb37) 183(共晶点) ≤150 融点が低く実装後の高温環境に弱い。耐熱用途には不向き
Sn-Ag-Cu(鉛フリーはんだ) 217〜221 ≤170 共晶はんだより融点が高い分、高温にやや強い
💡 融点の50%ルール(絶対温度):融点を絶対温度K(= °C + 273)で考えると、融点の約50%(0.5Tm)を超えると拡散が活発になりクリープが顕著になります。SS400なら 1808K × 0.5 = 904K ≈ 631℃。実用設計ではこれより低い350〜450℃を目安にします。

融点でみる金属の分類グラフ

高温用途で詰まる3つの場面

場面①:アルミダイカスト金型を炭素鋼で作ったら早期割れ
状況Al溶湯(660〜700℃)が繰り返し金型に接触。コスト削減のためにS45C系材料を使ったが、数百ショット後に亀裂が発生
原因S45Cの焼戻し温度(通常500〜600℃)と、Al溶湯温度(660〜700℃)が近接。繰り返し加熱・冷却によって焼戻しが進み硬さが低下。熱疲労によるヒートチェック(表面亀裂)が発生。S45Cの実用上限温度は450℃程度で、700℃のAl溶湯には耐えられない
対策Al溶湯金型にはSKD61(JIS SKD61、H13相当)を使う。Cr・Mo・V添加で高温強度と熱疲労抵抗が大幅向上。実用上限600℃でダイカスト環境に適合
場面②:SUS304部品を500℃環境で使ったら変形した
状況「ステンレスは高温に強い」と思い、SUS304製の部品を加熱炉内(500℃)で長期使用した。数週間後に寸法変化(クリープ変形)が確認
原因SUS304の融点は約1400〜1450℃と高いものの、実用強度が保てる上限は400℃程度(ASME基準では300℃以下推奨)。500℃はすでにクリープ領域で、長時間荷重下では寸法安定性が確保できない。また450〜850℃の範囲は粒界腐食が起きやすい「鋭敏化温度域」でもある
対策高温酸化環境ではSUS310S(Si・Cr高含有、使用上限950〜1050℃)、高温強度が必要な場合はNi基耐熱合金(NCF600・800等)を選定
場面③:亜鉛めっき部品を溶接したら危険なガスが発生した
状況SS400の亜鉛めっき品をそのままアーク溶接した。作業者が頭痛・吐き気を訴えた
原因亜鉛(Zn)の沸点は907℃で、溶接アーク(中心温度5000〜10000℃)が照射された瞬間に亜鉛が気化。Znガスを吸入すると「金属熱(亜鉛熱)」を引き起こし、インフルエンザ様症状が出現。亜鉛の融点は420℃と低く、溶接前に除去しなければ安全上の重大リスク
対策溶接箇所周辺のめっきをグラインダーで除去してから溶接するか、防塵マスク(Znヒューム対応)を着用し換気を徹底。めっき後に溶接が必要な設計はSPCC+後めっきを原則とする

温度帯別:「この温度ならこの材料」ガイド

〜200℃:一般機械・電子機器

SS400・S45C・SUS304・アルミ合金(A5052・A6061)が使えます。はんだ(183〜221℃)も安定。アルミは150℃超で急軟化に注意。

200〜500℃:排気系・熱間部品

SCM440(≤500℃)、SUS304(≤400℃)。排気フランジ等はSUS430・SUS304で足りるケースと、SUS310Sが必要なケースが分かれます。

500〜1000℃:炉内・鋳造金型

SUS310S(≤1050℃)、SKD61(≤600℃)。Ni基耐熱合金(NCF600・800)が現実的。チタンは400℃超で酸化が進むため不可。

1000℃超:溶融金属・工業炉

Mo・W系高融点金属、セラミックスとの複合材。Ni基超合金(Inconel 625・718)。コスト・加工性が一般材とは別次元になります。

はんだ付け・ろう付け温度管理

共晶はんだ183℃、Sn-Ag-Cu 217℃。Al用ろう材 560〜600℃(Alの融点660℃との差が小さく難しい)。銅のろう付けは900〜950℃前後の銀ろうが一般的。

ダイカスト・鋳造の溶湯温度

Al溶湯:660〜720℃、Mg溶湯:650〜700℃、亜鉛ダイカスト:420〜450℃。金型材料の実用上限温度と溶湯温度の差が小さいほど寿命が短くなります。

まとめ:融点・沸点の実務判断ポイント

  • 融点より「実用上限温度」を見る:融点が高くても実用上限は融点の20〜40%程度。SS400(融点1535℃)の上限は350℃
  • 合金は純金属より融点が低い:Al合金はAlより50〜60℃低い。はんだの共晶点183℃は純Sn(232℃)より低い。合金状態図の「液相線」を確認する必要がある
  • 沸点は危険温度の目安:亜鉛(沸点907℃)は溶接で気化して金属熱を引き起こす。Mgは650℃で溶融し、空気中での取り扱いには引火リスクがある

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