金属の融点・沸点一覧をやさしく解説:高温環境で「使える金属・使えない金属」の実務判断ガイド
① 融点・沸点とは何か:設計者が知っておくべき「温度の壁」
融点は固体から液体に変わる温度、沸点は液体から気体に変わる温度です。設計で重要なのは「融点より100〜300℃低い温度から、金属の強度が急激に低下し始める」という事実です。この強度低下によって起きる変形をクリープと呼びます。
② 主要金属の融点・沸点・比重 一覧表
| 金属 | 元素記号 | 融点 (°C) | 沸点 (°C) | 比重 (g/cm³) |
分類 |
|---|---|---|---|---|---|
| タングステン | W | 3422 | 5555 | 19.3 | 高融点金属 |
| レニウム | Re | 3186 | 5596 | 21.0 | 高融点金属 |
| モリブデン | Mo | 2623 | 4639 | 10.2 | 高融点金属 |
| ニオブ | Nb | 2477 | 4744 | 8.6 | 高融点金属 |
| クロム | Cr | 1907 | 2671 | 7.2 | 高融点金属 |
| 白金 | Pt | 1768 | 3825 | 21.4 | 貴金属 |
| パラジウム | Pd | 1555 | 2963 | 12.0 | 貴金属 |
| イリジウム | Ir | 2446 | 4428 | 22.6 | 貴金属 |
| チタン | Ti | 1668 | 3287 | 4.51 | 非鉄金属 |
| 鉄(純鉄) | Fe | 1538 | 2861 | 7.87 | 鉄鋼系 |
| コバルト | Co | 1495 | 2927 | 8.9 | 鉄鋼系 |
| ニッケル | Ni | 1455 | 2730 | 8.9 | 非鉄金属 |
| 銅 | Cu | 1085 | 2562 | 8.96 | 非鉄金属 |
| 金 | Au | 1064 | 2856 | 19.3 | 貴金属 |
| 銀 | Ag | 962 | 2162 | 10.5 | 貴金属 |
| アルミニウム | Al | 660 | 2519 | 2.70 | 非鉄金属 |
| マグネシウム | Mg | 650 | 1091 | 1.74 | 非鉄金属 |
| 亜鉛 | Zn | 420 | 907 | 7.13 | 非鉄金属 |
| 鉛 | Pb | 327 | 1749 | 11.3 | 非鉄金属 |
| ビスマス | Bi | 271 | 1564 | 9.8 | 非鉄金属 |
| スズ | Sn | 232 | 2602 | 7.3 | 非鉄金属 |
| インジウム | In | 157 | 2072 | 7.3 | 非鉄金属 |
比重の詳細比較は金属の比重一覧、硬さの比較は金属の硬さ一覧を参照してください。
③ 融点でみる金属の分類グラフ
31元素から自由に選択 → 固体域・液体域を横棒グラフで視覚比較。並び順・スケールも変更できます。
④ 代表合金の融点と実用上限温度
合金の融点は純金属より低くなることが多く、さらに「融ける温度」と「実用的に強度が保てる温度」は別物です。以下は実務で使う主要合金の目安です。
| 合金・材料 | 融点目安 (°C) | 実用上限温度 (°C) | 注意点 |
|---|---|---|---|
| SS400(炭素鋼) | 1520〜1540 | ≤350 | 350℃超でクリープ・酸化が顕著に |
| S45C(調質材) | 1500〜1530 | ≤450 | 調質後の焼戻し温度以上では硬さ・強度が低下 |
| SCM440(調質材) | 1430〜1480 | ≤500 | Moが高温強度を補助。S45Cより約50℃高い |
| SUS304 | 1400〜1450 | ≤400 | 400℃超でクリープ開始。ASME基準は300℃以下推奨 |
| SUS310S(耐熱ステンレス) | 1400〜1450 | ≤1050 | Si・Cr高含有で高温酸化に強い。長期使用は950℃以下 |
| SKD61(熱間ダイス鋼) | 1430〜1470 | ≤600 | H13相当。繰り返し熱負荷に強く、Al溶湯金型に最適 |
| A1100(純アルミ) | 643〜657 | ≤150 | 150℃超で急激に軟化。アルミ合金全般に共通 |
| A5052(Al-Mg合金) | 607〜652 | ≤125 | Mgが添加されると融点が純Alより50℃以上低下 |
| 純チタン(Grade 2) | 1668 | ≤315 | 酸化・水素脆化が問題になる前の上限。Ti-6Al-4Vは430℃程度 |
| 共晶はんだ(Sn63/Pb37) | 183(共晶点) | ≤150 | 融点が低く実装後の高温環境に弱い。耐熱用途には不向き |
| Sn-Ag-Cu(鉛フリーはんだ) | 217〜221 | ≤170 | 共晶はんだより融点が高い分、高温にやや強い |
⑤ 高温用途で詰まる3つの場面
Al溶湯(660〜700℃)が繰り返し金型に接触。コスト削減のためにS45C系材料を使ったが、数百ショット後に亀裂が発生した。
「ステンレスは高温に強い」と思い、SUS304製の部品を加熱炉内(500℃)で長期使用した。数週間後に寸法変化(クリープ変形)が確認された。
SS400の亜鉛めっき品をそのままアーク溶接した。作業者が頭痛・吐き気を訴えた。
⑥ 温度帯別:「この温度ならこの材料」ガイド
SS400・S45C・SUS304・アルミ合金(A5052・A6061)が使えます。はんだ(183〜221℃)も安定。アルミは150℃超で急軟化に注意。
SCM440(≤500℃)、SUS304(≤400℃)。排気フランジ等はSUS430・SUS304で足りるケースと、SUS310Sが必要なケースが分かれます。
SUS310S(≤1050℃)、SKD61(≤600℃)。Ni基耐熱合金(NCF600・800)が現実的。チタンは400℃超で酸化が進むため不可。
Mo・W系高融点金属、セラミックスとの複合材。Ni基超合金(Inconel 625・718)。コスト・加工性が一般材とは別次元になります。
共晶はんだ183℃、Sn-Ag-Cu 217℃。Al用ろう材 560〜600℃(Alの融点660℃との差が小さく難しい)。銅のろう付けは900〜950℃前後の銀ろうが一般的。
Al溶湯:660〜720℃、Mg溶湯:650〜700℃、亜鉛ダイカスト:420〜450℃。金型材料の実用上限温度と溶湯温度の差が小さいほど寿命が短くなります。
⑦ まとめ:融点・沸点の実務判断ポイント
設計・材料選定で押さえる3点
- 融点より「実用上限温度」を見る:融点が高くても実用上限は融点の20〜40%程度。SS400(融点1535℃)の上限は350℃。
- 合金は純金属より融点が低い:Al合金はAlより50〜60℃低い。はんだの共晶点183℃は純Sn(232℃)より低い。合金状態図の「液相線」を確認する。
- 沸点は危険温度の目安:亜鉛(沸点907℃)は溶接で気化して金属熱を引き起こす。Mgは650℃で溶融し、空気中での取り扱いには引火リスクがある。
金属の融点・沸点は材料選定の入口です。高温環境で使う部品を設計するときは、比重・硬さと合わせて確認することで、「選んだ材料が温度条件を満たしているか」を最初のスクリーニングとして使えます。融点の50%ルールと実用上限温度の概念を組み合わせれば、高温環境での材料選定の精度が大きく上がります。


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