板金部品の材料を選ぶとき、「SPCCとSPHCはどちらでもいいの?」「SGCCって同じ鋼板じゃないの?」という疑問はよく出てきます。この3種類の鋼板は、同じ低炭素鋼を素材としながら、製造プロセスと表面状態が根本的に異なります。どれを選ぶかによって、曲げ加工の精度・塗装の密着性・錆びへの強さが変わります。この記事では、3材料の違いを整理して、「どの場面でどれを選ぶか」の判断軸を解説します。
SPCC・SPHC・SGCCの記号の読み方
SGCCは「素材として冷延鋼板(SPCC相当)を使い、その後に亜鉛めっきを施した製品」です。「別の材料」というより「SPCCにコーティングをかけた完成品」と捉えると整理しやすくなります。
SPCC・SPHC・SGCCの成分・機械的特性の比較
| 項目 | SPCC(冷延) | SPHC(熱延) | SGCC(溶融亜鉛) |
|---|---|---|---|
| JIS規格 | G 3141 | G 3131 | G 3302 |
| C(炭素) | ≤0.12% | ≤0.15% | 規定なし(素材依存) |
| 引張強さ | 270MPa以上(参考値) | 270MPa以上(参考値) | 270MPa以上(参考値) |
| 表面状態 | 圧延肌(梨地・無光沢) | 黒皮(酸化鉄付き) | 亜鉛めっき |
| 寸法精度 | 高い(±0.1mm程度) | やや低い(±0.2mm以上) | 高い(冷延素材ベース) |
| 耐食性 | なし(要塗装) | なし(要塗装) | 高い(亜鉛の犠牲防食) |
| 価格感 | 基準 | SPCCより安い(目安:10〜20%安) | SPCCより高い(目安:30〜50%高) |
| 代表的な板厚 | 0.5〜2.3mm | 1.6〜6.0mm | 0.5〜2.3mm |
SPCC・SPHC・SGCCはいずれも引張強さの参考値が270MPa程度ですが、表面状態・寸法精度・塗装適性がまったく異なります。「強度で選ぶ材料」ではなく「プロセスと環境で選ぶ材料」と理解することが大切です。
冷延・熱延・亜鉛めっきのプロセスの違い
SGCCはSPCCを経由して作られます。つまり、SPHC→SPCC→SGCCという順で工程が追加されるほど、コストも上がります。
どこで選択が分かれるか:3つの判断軸
判断軸① 塗装するか・しないか(耐食性)
SPCCとSPHCは、生地のままでは錆止め能力がほとんどありません。切断・プレス後に塗装・電着塗装・パウダーコートを施すことが前提です。一方、SGCCは亜鉛の「犠牲防食」によって、素地の鉄が露出しても亜鉛が先に溶けて鉄の腐食を防ぎます。
「塗装を施す前提」→ SPCC or SPHC(コスト優先)
「塗装なしで屋外・湿潤環境に使う」→ SGCC(亜鉛めっき)
「塗装はするが、万が一傷がついたときも錆びさせたくない」→ SGCC(犠牲防食が働く)
判断軸② 板厚・寸法精度
| 板厚域 | 推奨材料 | 理由 |
|---|---|---|
| 〜1.2mm | SPCC / SGCC | 薄板の冷延が寸法精度・加工性で優位 |
| 1.2〜3.2mm | SPCC / SPHC(コスト次第) | 精度重視→SPCC、コスト重視→SPHC |
| 3.2mm超 | SPHC(冷延はこの域外) | 厚板は熱延が主流、SPCC規格外となる |
判断軸③ 溶接・切断後の処理
SGCCは溶接するときに亜鉛ガスが発生します。亜鉛中毒のリスクがあるため、溶接作業では十分な換気が必要です。また、SGCCを溶接すると、溶接ビード部分のめっき層が飛散して耐食性が低下します。
よくある取り違え・選定ミス事例
【事例1】SPCCをSPHCで代替したら穴径がバラついた
機構部品の0.8mm薄板にφ3.5mmの打ち抜き穴が多数必要なケースで、コスト削減のためにSPHCに変更したところ、板厚公差のばらつきがSPCCより大きく、打ち抜き後のバリ高さが安定しなくなった事例があります。SPHCの板厚公差はSPCCの約1.5〜2倍程度の場合があり、精密打ち抜きには冷延の寸法精度が前提であることを確認しておく必要があります。
【事例2】SGCCを「防錆材」と思い込んで溶接した屋外架台
屋外設置の架台をSGCCで製作し、全面溶接組立を行ったケースです。溶接熱で亜鉛が蒸発した部分から1年以内に錆が発生し、補修塗装が必要になりました。溶接箇所が少なければSGCC(+溶接補修)、溶接が多い構造ならSPCC+後塗装の組み合わせが耐久性の観点から合理的です。
【事例3】SPHCの黒皮を落とさずに塗装した
SPHCの黒皮(ミルスケール)は酸化鉄の層で、塗装前にショットブラストや酸洗で除去しないと塗料の密着性が著しく低下します。SPCCは圧延肌のため、脱脂処理だけで塗装できることが多いですが、SPHCはブラスト処理を前提とした設計が必要です。
SPCC・SPHC・SGCC:選定フロー
3.2mm超 → SPHC一択(SPCCの規格範囲外)
1.2mm以下 → SPCC / SGCC(薄板冷延域)
1.2〜3.2mm → 次のステップへ
屋外・湿潤・塗装なしの方向 → SGCC
屋内・塗装前提 → 次のステップへ
精密打ち抜き・曲げ精度重視 → SPCC
溶接・ブラスト前提の構造部材 → SPHC(コスト優先)
溶接箇所多 → SPCC+後塗装に切り替えを検討
溶接箇所少 → SGCC(溶接部を亜鉛ペイントで補修)
3材料の特性バランス(チャート)
代替可否マトリクス
| 代替の方向 | 条件 | 可否 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| SPCC → SPHC | 板厚2.0mm以上・溶接構造・塗装前提 | △〜○ | 板厚公差確認・ブラスト工程を追加 |
| SPHC → SPCC | 1.6〜3.2mm・精度重視 | ○ | コストアップ。薄板精度が必要なら合理的 |
| SPCC → SGCC | 塗装なし・屋外・湿潤環境 | ○ | コストアップ(30〜50%増)。溶接設計を見直す |
| SGCC → SPCC | 溶接構造・塗装で防錆できる環境 | △ | 塗装品質の管理が代替の前提条件 |
| SPHC → SGCC | 3.2mm超 | × | SGCCの板厚規格は3.2mmまで。厚板は別途検討 |
JIS規格・グレード・海外規格との対応
| 材料 | JIS規格 | グレード例 | 海外規格(参考) |
|---|---|---|---|
| SPCC | G 3141 | SPCC(一般用)、SPCD(深絞り用)、SPCE(非時効性深絞り用) | ISO CR1〜4、EN DC01〜DC06、ASTM A1008 CS-A |
| SPHC | G 3131 | SPHC(一般用)、SPHD(深絞り用)、SPHE(非時効性深絞り用) | ISO HR1〜3、EN S235JR相当、ASTM A1011 CS-A |
| SGCC | G 3302 | SGCC(一般用)、SGCD1〜4(絞り用)、SGHC(高張力) | ISO DX51D+Z、EN S250GD+Z、ASTM A653 CS-A |
SGCCには亜鉛付着量の等級があります。例えば「Z12」は両面合計で120g/m²の亜鉛が付着しています。屋内一般用ならZ06(60g/m²)、屋外・湿潤環境ではZ12〜Z27(120〜275g/m²)を使い分けます。「SGCCなら何でも同じ」ではなく、付着量等級の指定まで確認することが調達の基本です。
用途別の使い分け事例
SPCC 0.8〜1.6mmが標準的な選択。後工程で電着塗装またはパウダーコートを施します。寸法精度が高く、曲げ後のスプリングバックも安定しています。
塗装なしで長期使用する場合はSGCC。溶接箇所が多い場合はSPCC+後塗装(亜鉛系プライマー)の組み合わせが現実的です。
板厚2.0mm以上でコストを抑えたい場合はSPHC。ブラスト+塗装工程が取れる場合に限り、SPCCより合理的です。
湿気にさらされる屋内配管ダクトはSGCC(Z06〜Z12)が一般的。折り曲げ・スナップボタン接合が多く溶接が少ないため、SGCCの耐食性を最大限に活用できます。
深絞り用グレードが必要な場合はSPCDまたはSPCE(G 3141)、SPHD/SPHE(G 3131)を選定します。汎用のSPCC・SPHCではひび割れが生じる場合があります。
建材用途では亜鉛めっきの付着量が多いSGCH(SGCCの高付着量品)や、溶融亜鉛-アルミ-マグネシウム合金めっき鋼板も使われます。
まとめ:SPCC・SPHC・SGCCの選び方3原則
- ① 板厚で最初に絞る:3.2mm超ならSPHC一択。1.2mm以下ならSPCC/SGCCから選ぶ。
- ② 防錆の方法で分岐する:塗装で防錆 → SPCC/SPHC。亜鉛の犠牲防食が必要 → SGCC(付着量等級まで確認)。
- ③ 溶接・加工工程を確認してからSGCCを決める:溶接箇所が多い設計にSGCCを使うと、溶接部の防錆が破綻しやすい。溶接が多いならSPCC+後塗装を再検討する。


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