金型に使われる材料リスト

鉄鋼材料

金型材料の選定は、金型の種類(プレス・ダイカスト・射出成形)によって求められる性能がまったく異なります。「とりあえずSKD11」「ダイカストはSKD61」という経験則だけでは、耐久性不足や過剰スペックによるコスト増を招きます。この記事では、JIS工具鋼の記号体系の読み方から種類別の主要材料・海外規格との対応・用途別の選定基準まで、現場で即使える知識を体系的に解説します。

① JIS工具鋼の規格記号を正しく読む

金型材料は主に「工具鋼(JIS G4404 / G4403)」の規格体系に属します。JISでは「SKD」「SKH」「SKS」などの記号が使われており、記号の各文字に意味があります。記号の読み方を理解することが、材料選定の第一歩です。

金型材料 JIS工具鋼の記号体系 — 例:SKD11(冷間ダイス鋼)— S K D 1 1 S = Steel 鋼(Steel) K = 工具 (Kougu) 工具鋼(JIS独自) D = Die steel ダイス鋼(型鋼) 11 = グレード番号 高炭素高クロム系 主要記号一覧 SKD — ダイス鋼 SKH — 高速度鋼(ハイス) SKS — 合金工具鋼 NAK — 析出硬化系※ STAVAX — SUS改良※ ※メーカー独自規格 (JIS外品) — SKH51(高速度工具鋼)の場合 — S=Steel / K=工具 / H=High speed(高速度) / 51=グレード番号
覚えておきたい法則: JIS工具鋼の記号はすべて「SK」で始まり、3文字目でカテゴリが決まります。D=ダイス鋼(型鋼)、H=高速度鋼、S=合金工具鋼。末尾の数字はグレード番号であり、数字が大きいほど性能が上がるわけではありません(組成が異なるだけ)。なお、NAK80・STAVAXのようなメーカー独自材料はJIS外品であるため、選定時はメーカーの技術資料を必ず参照してください。

② 金型種類別 主要材料グレード一覧と選定基準

金型の種類ごとに使用すべき材料をまとめました。同じ「工具鋼」でも、求められる性能(耐摩耗・靱性・耐熱・耐食)が大きく異なります。金型種別を確認してから、適切なグレードを選定してください。

🔵 プレス金型(冷間・熱間)

材料名 / 規格 分類 主な特徴 主な使用部位 硬度・処理
SKD11(JIS G4404)冷間ダイス鋼高炭素高クロム系。耐摩耗性・耐圧壊性に優れる。焼入れ性安定。パンチ・ダイ(冷間打抜き・曲げ)HRC 60〜62
DC53(大同特殊鋼)冷間ダイス鋼改SKD11改。高靱性+高硬度。放電加工後の割れ抑制。精密打抜きパンチ・深絞りダイHRC 62〜63
SKD61(JIS G4404)熱間ダイス鋼5%Cr系。高温強度・熱疲労性に優れる。熱間プレス標準材。熱間鍛造ダイ・曲げ型HRC 44〜52
SKH51(JIS G4403)高速度鋼(ハイス)W-Mo系。高温硬度・耐摩耗性に優れる。高速精密打抜き向け。高速精密パンチHRC 63〜66
SKS3(JIS G4404)合金工具鋼W-Cr系。靱性と耐摩耗性のバランス型。汎用的に使用。ストリッパー・ガイドポストHRC 58〜62
NAK80(大同特殊鋼)プリハードン鋼析出硬化系。HRC 38〜42出荷。鏡面仕上げ性良好。試作型・小ロットプレス型プリハードン HRC 38〜42
S55C / S50C(JIS G4051)炭素鋼汎用構造部品向け。強度・加工性バランス型。ダイセット・プレートベース調質後 HRC 23〜28
FC250 / FCD600(JIS G5501/5502)鋳鉄振動吸収性・被削性良好。大型ダイセット・フレームに使用。大型ダイセット・ベースプレート鋳造成形のまま使用
SUJ2(JIS G4805)軸受鋼均一な硬度・耐摩耗性。ガイドピン・ブッシュの標準材。ガイドポスト・ガイドブッシュHRC 60〜65

🟠 ダイカスト・鋳造金型

材料名 / 規格 分類 主な特徴 主な使用部位 硬度・処理
SKD61(JIS G4404)熱間ダイス鋼ダイカスト型の事実上の標準材。熱疲労・ヒートチェック耐性に優れる。キャビティ・コア全般HRC 44〜50
DH31-S / DH31-EX(日立金属)熱間ダイス鋼改良SKD61改良型。熱疲労寿命・靱性をさらに向上。大型ダイカスト向け。Al・Mg大型キャビティHRC 44〜48
FDAC(大同特殊鋼)プリハードン熱間鋼HRC 40出荷。時効処理不要で短納期対応。試作・小ロット向け。試作ダイカスト型プリハードン HRC 38〜42
WC超硬合金(P30〜P50相当)超硬合金超高硬度(HRA 86〜90)。溶損・摩耗が極めて大きい部位に使用。ゲートインサート・湯口スリーブHRA 86〜90
SKD61+窒化処理表面処理品イオン窒化によりHV900〜1200。離型性・耐溶着性が大幅向上。キャビティ面・コア面表面 HV 900〜1200
SCM440(調質)(JIS G4105)クロムモリブデン鋼高強度・高靱性。大型・高圧ダイカスト向けホルダーに好適。大型型フレーム・タイロッドHB 280〜320
SUS420J2(JIS G4303)マルテンサイト系SUS耐食性と硬度を両立。Mg・Zn鋳造等の腐食環境で使用。Mg/Znダイカスト コア部品HRC 50〜54

🟢 プラスチック射出成形金型

材料名 / 規格 分類 主な特徴 主な使用部位 硬度・処理
P20(AISI P20相当)プリハードン鋼HRC 28〜34出荷。汎用射出成形型の定番材料。補修・加工容易。キャビティ・コア(汎用)プリハードン HRC 28〜34
NAK80(大同特殊鋼)析出硬化プリハードンHRC 38〜42出荷。鏡面仕上げ・放電加工性に優れる。透明成形向け。光学部品型・鏡面キャビティプリハードン HRC 38〜42
NAK55(大同特殊鋼)析出硬化(快削)NAK80の快削版。被削性が高く納期短縮に有効。複雑形状コア・試作型HRC 38〜42
SKD11(JIS G4404)冷間ダイス鋼耐摩耗性が高くフィラー入り樹脂対応。焼入れ後精密加工。フィラー入り樹脂型・ゲートブッシュHRC 58〜62
STAVAX ESR(Uddeholm)SUS420改良(ESR)高純度・均一組織。超鏡面+耐食性の最高水準材。光学レンズ型向け。光学レンズ型・透明キャビティHRC 50〜54
HPM38(日立金属)SUS系プリハードンSUS420系プリハードン(HRC 31〜35出荷)。耐食性+加工性。耐食コア・汎用腐食対応型プリハードン HRC 31〜35
BeCu合金(C17200等)ベリリウム銅熱伝導率が鋼の6〜10倍。急速冷却が必要な局部コアに使用。冷却効率重視コア・局部冷却インサートHRC 36〜42
A7075 / A2024(アルミ合金)アルミ合金軽量・高熱伝導・快削性。試作型・少量生産型にコスト優位。試作型・プロトタイプ型硬質アルマイト処理で耐久性向上
ELMAX(Uddeholm)粉末高速度鋼粉末冶金製。高硬度+高靱性+耐腐食性の複合性能。高耐久精密型・ガラス繊維入り樹脂型HRC 61〜62

③ 金型材料を正しく選ぶための「3つの失敗モード」

金型が短命に終わる原因は、ほぼ次の3つに分類できます。材料選定の前に、自分の金型がどの失敗モードにさらされるかを必ず確認してください。

失敗モード① 摩耗(Wear):プレス型・射出成形型で特に発生しやすい。フィラー入り樹脂・硬い素材を扱う場合は、SKD11・ELMAXなどHRC 60以上の高硬度材を選定してください。

失敗モード② ヒートチェック(Heat Check):ダイカスト型の最多破損形態。溶湯との温度差で表面に熱疲労亀裂が入ります。SKD61またはDH31系+窒化処理が標準的な対策です。

失敗モード③ 腐食(Corrosion):PVC・難燃剤・Mg合金鋳造など腐食性環境で進行します。Cr含有量12〜17%のSUS系材料(STAVAX・HPM38・SUS420J2)を選定してください。
金型の失敗モードと対応材料 ① 摩耗 プレス・射出成形に多い 対策材:SKD11, DC53 SKH51, ELMAX 高炭素・高硬度鋼を選ぶ → HRC 60以上が目安 ② ヒートチェック ダイカスト型に最多 対策材:SKD61, DH31系 +窒化処理が有効 高靱性+耐熱疲労を重視 → HRC 44〜50が目安 ③ 腐食 PVC・難燃剤・Mg鋳造 対策材:STAVAX ESR HPM38, SUS420J2 SUS系またはCr高含有鋼 → Cr 12〜17%が目安

④ 代表5材料の特性比較と選び方

最も使用頻度の高い5材料を6軸のレーダーチャートで比較しました。「どの性能を優先すべきか」を軸に、用途に合った材料を選定してください。

SKD11(冷間プレス) SKD61(熱間・ダイカスト) NAK80(射出成形) STAVAX(光学・耐食) SKH51(高速プレス)

※軸の数値は相対評価(5点満点)。絶対値ではなく用途比較の目安として参照してください。

材料耐摩耗性靱性耐熱性耐食性鏡面性コスト(安い→高い)主な用途
SKD11★★★★★★★★★★★★★★★★★★(中)冷間プレス・打抜き
SKD61★★★★★★★★★★★★★★★★★★★(中)熱間鍛造・ダイカスト
NAK80★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★(やや高)射出成形・光学
STAVAX ESR★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★(高)耐食・透明・医療型
SKH51★★★★★★★★★★★★★★★★★★★(やや高)高速精密打抜き

⑤ JIS・海外規格対応表(調達・設計時の早見表)

海外調達・設計図面への規格記載時に役立つ、JISと海外規格(AISI/ASTM・DIN/EN・中国GB)の対応表です。材料発注前に必ず確認してください。

JIS(日本)AISI/ASTM(米国)DIN/EN(欧州)GB(中国)主な特徴・備考
SKD11(JIS G4404)D21.2379 / X155CrVMo12-1Cr12MoV最も汎用性が高い冷間ダイス鋼。各規格でほぼ同等の組成。
SKD61(JIS G4404)H131.2344 / X40CrMoV5-14Cr5MoSiV1ダイカスト・熱間加工の世界標準鋼。H13との互換性が高い。
SKH51(JIS G4403)M21.3343 / HS6-5-2W6Mo5Cr4V2W-Mo系高速度鋼の世界標準。M2と組成的に最も近い。
SKS3(JIS G4404)O1に近い1.2510 / 100MnCrW4に近い9CrWMnに近いW-Cr-Mn系。完全一致する海外規格なし。O1が近似材として使われることが多い。
SKH57(JIS G4403)M421.3247 / HS2-9-1-8W2Mo9Cr4VCo8Co添加高性能ハイス。M42と同等。難削材加工や精密パンチに使用。
SUS420J2(JIS G4303)4201.4028 / X30Cr133Cr13マルテンサイト系SUS。金型インサート・腐食対策部品に使用。
P20相当(メーカー品)P20(AISI規格)1.2311 / 40CrMnMo73Cr2Mo射出成形型の汎用プリハードン鋼。AISI P20が実質的な国際標準。
STAVAX ESR(Uddeholm)420ESRに近い1.2083 ESRに近いメーカー品スウェーデン・Uddeholm社の独自改良材。ESR(エレクトロスラグ再溶解)で均一組織を実現。
⚠️ 注意事項: JISとAISI/DINは「ほぼ同等」であっても、成分範囲が微妙に異なるケースがあります。海外調達時は必ず成分証明書(ミルシート)で実成分を確認してください。特にSKD61とH13はJIS規格とAISI規格でV(バナジウム)含有量の範囲が異なるため、注意が必要です。

⑥ 金型種類・用途別 材料選定ガイド

🏭 冷間打抜き・プレス型

SKD11が標準。高精度・高速加工にはSKH51。靱性と硬度を両立させたいDC53も普及している。ダイセット本体にはS55C・FC250を使用。

🔥 熱間鍛造・プレス型

SKD61が最多使用。大型型・高荷重にはDH31-S等の高靱性改良材を選択。表面窒化(イオン窒化)を追加して耐熱疲労寿命をさらに延ばすことが多い。

💧 アルミダイカスト型

SKD61が定番。長寿命・大型型にはDH31-EX等の改良鋼を使用。湯口・スリーブにはWC超硬合金インサートを圧入する設計が一般的。

⚡ プラスチック射出成形型(汎用)

プリハードン鋼P20・NAK55が主流。大量生産・高精度品にはNAK80。フィラー入り樹脂にはSKD11焼入れ品を使い分ける。

🔬 光学・精密成形型

超鏡面性能が必要な場合はSTAVAX ESR一択に近い。NAK80も鏡面性良好で汎用品として使用。ESR材は介在物が少なく微細なクラックが発生しにくい点が優れている。

🏥 医療・食品・耐食型

SUS系のHPM38・STAVAX・SUS420J2焼入れ材が選ばれる。PVC・難燃剤使用の場合も同様。ガス腐食が発生しやすい環境ではCr含有量17%以上の材料が望ましい。

⑦ 共通補助材料・機能部品材料の選定

金型の種類を問わず広く使われる機能部品・補助材料です。本体材料と同様に、部位ごとの要件に合わせて適切な材料を選定してください。

材料名 / 規格分類主な使用部位特徴・ポイント
SUJ2(JIS G4805)高炭素クロム軸受鋼ガイドポスト・ガイドブッシュHRC 62〜65。均一硬度で精度安定性が高い。
SKH51(JIS G4403)高速度工具鋼エジェクターピン・スプールブッシュHRC 63〜66。摩耗しやすい細ピン類に最適。
SCM415(浸炭焼入れ)クロムモリブデン鋼(低炭素)スライドガイド・ロッキングブロック表面 HRC 60〜64、中心靱性確保。浸炭深さ 0.8〜1.2mm が目安。
C3604(快削黄銅)(JIS H3250)鉛快削黄銅バネ座・スペーサー・摺動ブッシュ快削性・摺動性・非磁性。自己潤滑性があり摩擦が少ない。
Si₃N₄(窒化ケイ素)エンジニアリングセラミック断熱インサート・ホットランナー絶縁超軽量・耐熱・高絶縁性。熱膨張係数が小さく精度部品に使用。
SUP10 / SWP-Bバネ鋼・ピアノ線リターンスプリング・ストリッパースプリング高弾性・耐疲労性。矩形バネは低スペースで高荷重が得られる。

この記事のまとめ:金型材料選定の要点

金型材料の選定で最初に確認すべきことは、「どの失敗モード(摩耗・ヒートチェック・腐食)に対処するか」です。冷間プレス型・熱間鍛造型・ダイカスト型・射出成形型では、それぞれ求められる性能がまったく異なります。汎用品から高性能品まで迷ったときは、①失敗モードの確認 → ②要求硬度・靱性レベルの設定 → ③プリハードン鋼で対応可能かの検討 という順序で絞り込むと効率的です。また、JIS工具鋼の記号体系と国際規格(H13/D2/M2等)の対応関係を把握しておくことは、海外調達・設計仕様書作成において直接役立ちます。NAK80・STAVAXなどメーカー独自材料を使う場合は、JIS規格と別にメーカー技術資料を参照することを忘れずに。

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