腐食の種類をやさしく解説:孔食・すきま腐食・応力腐食割れを現場で見分ける

「ステンレスなのに錆びた」「使って半年で穴が開いた」「ある日突然割れた」——腐食トラブルは種類によって原因も対策も全く異なります。「錆び」とひとまとめにしても解決しません。孔食・すきま腐食・応力腐食割れ・粒界腐食・異種金属腐食を現場で見分け、正しい対策を選べるように整理します。

腐食の種類と見分け方——一覧

種類外観の特徴主な起因よく起きる材料・環境
全面腐食表面全体が均一に腐食・赤錆酸・アルカリへの浸漬、不動態皮膜なし炭素鋼・鋳鉄(水・大気中)
孔食(ピッティング)表面に小さな穴・点状の錆塩化物イオン(Cl⁻)による局部的な皮膜破壊ステンレス(SUS304)・海水環境
すきま腐食フランジ・ガスケット接触部に集中した腐食すき間内部のCl⁻濃縮・酸素欠乏ステンレス・チタンのボルト締結部
異種金属腐食(ガルバニック腐食)電位の低い金属側が局部的に腐食異種金属の接触+電解質(水・塩水)アルミ×ステンレスボルト、鉄×銅配管
応力腐食割れ(SCC)表面の傷が少ないのに突然割れる引張応力+特定腐食環境の組み合わせSUS304(塩化物)、黄銅(アンモニア)
粒界腐食結晶粒界に沿った腐食・ぼろぼろになる鋭敏化(溶接熱影響部のCr欠乏帯)SUS304溶接部(450〜850°C加熱域)
エロージョン腐食流れ方向に沿った腐食・平滑な凹み高流速流体による機械的摩耗+腐食の複合銅配管エルボ部・ポンプ羽根車

孔食(ピッティング)——ステンレスに穴が開くしくみ

孔食はステンレスを使っている現場で最も頻繁に遭遇する腐食トラブルです。ステンレスの耐食性は表面のごく薄い不動態皮膜(主にCr₂O₃)が担っています。この皮膜は塩化物イオン(Cl⁻)に対して局所的に弱く、ある一定濃度のCl⁻が存在すると、皮膜の弱い部分が点状に破壊されます。破壊された部分は外部のCl⁻がさらに濃縮され、腐食が垂直方向に深く進んで「穴」になります。

孔食への耐性の指標:PREN(孔食指数) PREN = %Cr + 3.3×%Mo + 16×%N  値が高いほど耐孔食性が高い
SUS304:約18、SUS316:約25、SUS316L:約25、SUS317L:約32、二相系2205:約35〜40
Cl⁻濃度の目安推奨材料
〜200ppm(市水・雨水)SUS304で対応可能
200〜1,000ppmSUS316L以上を検討
1,000〜5,000ppm(海岸近く・温泉)SUS316L・二相系(SUS329J4L)
海水(約19,000ppm)スーパー二相系・チタン・Ni合金

すきま腐食——「接触面の内側」で起きる腐食

すきま腐食は、ガスケット・フランジ接触面・ボルト座面など、液が入り込めるが流通しにくいすき間で起きます。外部の液が入ると、すき間内部の酸素が消費されて外部と濃度差が生じます(酸素濃淡電池)。酸素欠乏部分が腐食の陽極になり、さらにCl⁻がすき間内部に濃縮されて腐食が加速します。

注意すきま腐食はSUS316Lでも発生します。塩化物環境でのフランジ接合・ボルト締結部には、すき間腐食対策としてPTFEシート・非金属ガスケットの使用、または定期的な分解清掃が必要です。

対策として有効なのは:①すき間をなくす(溶接・シール強化)、②高PREN材(スーパー二相系・チタン)へ変更、③カソード防食の適用、④定期点検と早期発見です。

応力腐食割れ(SCC)——最も危険な腐食トラブル

応力腐食割れは「引張残留応力」と「特定の腐食環境」が同時に存在するときにだけ起きる、特異な破壊形態です。表面の腐食はほとんど見えないまま内部でき裂が進展し、突然破断します。破面を見ると貝殻状・枝分かれ状の脆性的な割れが見られます。

材料SCCを起こす環境応力の起源
オーステナイト系SUS(SUS304・316)塩化物(海水・温泉・冷却水)+60°C以上溶接残留応力・締め付けトルク
黄銅(C2600・C3604)アンモニア・アミン雰囲気加工残留応力(深絞り・曲げ後)
マルテンサイト系SUS・高強度鋼水素(酸洗・めっき・カソード防食)締結応力・加工残留応力
チタン合金発煙硝酸・メタノール(特定の条件)高応力設計部位
温泉設備のSUS316配管が突然破断
状況温泉水(Cl⁻:800ppm、80°C)を輸送するSUS316配管が、設置から3年後に漏れなしに突然破断。破面は脆性的で枝分かれき裂が確認された。
原因溶接部の残留引張応力+温泉水のCl⁻+高温の組み合わせによるSCC。SUS316はCl⁻+60°C以上でSCCリスクが高い。
対策二相系ステンレス(SUS329J4L)に変更。溶接後に焼鈍(残留応力除去)を実施。定期的な渦流探傷検査で早期発見体制を構築。

粒界腐食——溶接後に「鋭敏化」で起きる

オーステナイト系ステンレスは450〜850°Cに加熱されると、結晶粒界にCr炭化物(Cr₂₃C₆)が析出し、粒界近傍がCr欠乏帯になります(鋭敏化)。この状態で腐食環境にさらされると、Cr欠乏帯が優先腐食されて粒界が溶け、材料がぼろぼろになります。

溶接熱影響部(HAZ)は450〜850°Cの温度範囲を必ず通過する。SUS304溶接部での粒界腐食を防ぐには、①SUS304L(低炭素グレード)を使う、②SUS321・SUS347(安定化グレード:TiやNbでCを固定)を使う、③溶接後に固溶化熱処理(1,010〜1,150°C急冷)する、の3択。

異種金属腐食——「電位差」が引き起こす選択腐食

電位の異なる金属が電解質(水・塩水)を介して接触すると、電位の低い(卑な)金属が優先的に腐食されます。

組み合わせ腐食される側対策
ステンレスボルト×アルミ部品アルミ(大きく腐食)絶縁ワッシャー・絶縁塗装
銅配管×鉄バルブ同一金属系に統一、または絶縁継手
炭素鋼×ステンレス炭素鋼絶縁、または防食塗装
チタン×ステンレス(海水中)ステンレス電位差が大きい場合は絶縁必須
腐食トラブル対応チェックリスト
  • 腐食の外観(全面か局部か・穴か割れか)を記録・写真に残した
  • 使用環境(Cl⁻濃度・pH・温度・流速)を確認した
  • 溶接部・フランジ接触部・ボルト座面など「すき間」になる箇所を点検した
  • 引張残留応力の有無を確認した(溶接・冷間加工後)
  • 異種金属の接触がないか確認した
  • 材料変更だけでなく、設計・環境・維持管理で対策できないか検討した

まとめ

  • 腐食は種類によって原因・対策が全く異なる。「錆び」とひとまとめにしては解決しない。
  • 孔食は塩化物がステンレス不動態皮膜を局部破壊して起きる。PREN値で耐性を比較できる。
  • すきま腐食はSUS316Lでも発生する。すき間の設計・シールで防ぐのが根本対策。
  • 応力腐食割れは「引張応力+特定環境」の組み合わせで起きる最も危険な腐食。SUS304は塩化物環境で要注意。
  • 粒界腐食は鋭敏化(溶接熱影響)が原因。SUS304LまたはSUS321/347の選択で防げる。

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