めっき製品の品質トラブルで最も多いのが「剥がれ」です。外観不良にとどまらず、機能性めっき(耐食・電気接触・潤滑)では剥がれが即座に性能不良につながります。めっきの剥がれは「つけた後の問題」ではなく「つける前の問題」であることがほとんどです。
めっき密着のメカニズム
めっきが母材に密着するのは、主にアンカー効果(表面の微細な凹凸への入り込み)と化学的な結合力によります。この密着を妨げるものが表面に存在すると、めっきは乗っているように見えても実際にはほとんど密着していない状態になります。
めっきの種類別・剥がれの原因と特徴
電気めっき(亜鉛・ニッケル・クロム等)
電気めっきの密着不良の9割以上は前処理の問題です。脱脂→酸洗→活性化の各工程が適切に機能していないと、油膜や酸化皮膜が残った状態でめっき層が形成されます。このとき外観はきれいに見えても、ピール試験(セロテープ剥離)や折り曲げ試験で簡単に剥がれます。
無電解ニッケルめっき(Ni-P)
無電解めっきは自己触媒反応で析出するため、活性化処理(Pd触媒付与)が不十分だと母材上で反応が始まらず、密着力が極端に低下します。アルミ・ステンレスへの無電解ニッケルではジンケート処理(アルミ)や特殊エッチング(ステンレス)の工程精度が密着の鍵です。
溶融亜鉛めっき(ドブ漬け)
溶融亜鉛めっきでは母材の炭素量・ケイ素量によってめっき層の成長が異なります。Si含有量が高い鋼(0.04〜0.12%または0.25%以上)では「サンデリン現象」が起き、めっき層が異常成長して脆くなり剥がれやすくなります。また、溶接部のスパッタ・スラグ残留もめっき不着の原因です。
| めっき種類 | 剥がれの主な原因 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 電気亜鉛めっき | 脱脂不良・酸洗不足・活性化不良 | 前処理液の管理値(濃度・温度・時間) |
| 電気ニッケルめっき | 油脂残留・スマット残留 | ウォーターブレーク試験(水はじき確認) |
| 硬質クロムめっき | 微細なクラックへの応力集中・前処理不良 | 応力測定・前処理後の外観確認 |
| 無電解Ni-P | 活性化不足・ジンケート処理不良(Al素材) | スクラッチ試験・密着強度測定 |
| 溶融亜鉛めっき | Si量・サンデリン現象・スラグ残留 | 母材のSi量確認・溶接部の清浄度確認 |
材質・形状が引き起こす密着不良
鋳鉄・鋳造品
鋳造品は表面に黒鉛や炭素膜(スマット)が存在し、通常の酸洗だけでは除去しきれません。陽極電解処理や特殊エッチングが必要になることがあります。
焼入れ鋼・高合金鋼
焼入れ後は表面の不動態皮膜が安定しており、通常の酸洗では活性化しにくくなります。強化活性化処理(ウッドストライク等)が有効です。
隙間・袋状形状
隙間や袋状の部位は前処理液・めっき液が十分に入らず、処理が不均一になります。設計段階で「めっきが入れる形状か」を確認し、液が排出できる水抜き穴を設けることが重要です。
使用中に剥がれる場合の原因
適切な前処理・施工がなされていても、使用中に剥がれるケースがあります。
めっき層と母材の熱膨張係数が大きく異なる場合、温度変化の繰り返しで界面に応力が蓄積し剥がれます。硬質クロムめっき鋼の高温使用などで発生。
電気めっき中に侵入した水素が使用中に拡散・凝集し、めっき層を内側から押し上げて膨れ・剥がれが発生。高強度鋼でのベーキング不足が原因。
めっき層のピンホール・傷から腐食が進んで密着界面まで到達し、剥がれが拡大。下地処理・防食設計の見直しが必要。
現場でのトラブル事例
- めっき前に油脂・スラグ・スケールを完全に除去した
- 前処理液の濃度・温度・処理時間を管理値内に保っている
- 袋状・隙間形状に液が入る構造か確認した(水抜き穴の設置)
- 無電解NiのアルミやSUSへの施工では専用前処理を確認した
- 溶融亜鉛めっきでは素材のSi量を確認した
- 受入検査に折り曲げ試験・クロスカット試験を採用している
- 高強度鋼への電気めっきでベーキング処理(水素脆化防止)を確認した
まとめ
- めっきの剥がれはほぼ「前処理の問題」で、脱脂・酸洗・活性化の各工程の管理が密着の決め手
- 素材の種類(鋳鉄・焼入れ鋼・アルミ)によって必要な前処理が異なる
- 溶融亜鉛めっきではSi量・溶接スパッタが不着の主因
- 使用中の剥がれには熱膨張差・水素脆化・腐食進行の3つの原因がある
- 受入検査に折り曲げ試験を加えることで出荷後のトラブルを防げる

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