プレス加工の材料選定で「SPCCにするかSPHCにするか」は、現場でよく出る問いです。「SPCCは表面がきれい、SPHCは安い」程度の理解で選ぶと、成形割れや溶接不良が後から出てきます。2つの違いは製法(冷延か熱延か)に根ざしており、それが機械的性質・成形性・後工程への影響を決めています。
SPCCとSPHCの基本的な違い
| 項目 | SPCC(冷延鋼板) | SPHC(熱延鋼板) |
|---|---|---|
| 製法 | 熱延後に冷間圧延+焼きなまし | 熱間圧延のまま(ミルスケールあり) |
| 板厚範囲 | 0.4〜3.2mm(薄板が得意) | 1.6〜14mm(厚板まで対応) |
| 表面状態 | 光沢あり・平滑 | ミルスケール(黒皮)あり・粗い |
| 寸法精度 | 高い(板厚・平坦度ともに安定) | やや劣る(熱収縮による変動あり) |
| 引張強さ | 270MPa以上(規格値) | 270MPa以上(規格値) |
| 伸び(延性) | 高い(t≦0.6mmで28%以上) | やや低い(t≦1.6mmで30%以上、ただしr値が低い) |
| r値(深絞り性) | 高い(1.4〜1.8程度) | 低い(0.9〜1.2程度) |
| コスト | 高い(冷延工程分上乗せ) | 安い(熱延のまま出荷) |
| 塗装・めっき適性 | ◎(平滑面で密着良好) | △(スケール除去が必要) |
プレス成形性の違い——r値が重要
深絞り・絞り成形の難易度を左右するのがr値(ランクフォード値)です。板厚方向への変形しにくさを示す指標で、r値が高いほど深絞りに向きます。
- SPCC(冷延)のr値:1.4〜1.8 → 深絞り・複雑な絞り成形に向く
- SPHC(熱延)のr値:0.9〜1.2 → 単純な曲げ・せん断には十分。深絞りは不向き
深絞り成形(カップ・容器・複雑な立体形状)はSPCC一択。SPHCで深絞りをしようとすると割れや耳波が出やすく、設計通りの形状が出ない。
曲げ加工での注意点
SPHCは熱延のため材料内部の異方性がSPCCより大きい場合があります。圧延方向に対して垂直に曲げる場合(C方向曲げ)は割れリスクが高まります。曲げR/t比(曲げ半径÷板厚)をSPCCより大きく取る設計が安全側です。
溶接性の比較
規格上の化学成分はほぼ同等(低炭素鋼)のため、溶接性に大きな差はありません。ただし実務で問題になるのはSPHCのミルスケール(黒皮)です。
- スケールをそのまま溶接するとブローホール・スラグ巻き込みが起きやすい
- 溶接部の品質を確保するには酸洗い(スケール除去)またはグラインダー研削が必要
- SPCCは表面が平滑なため前処理なしで溶接できる場合が多い
表面処理(塗装・めっき)への影響
| 後工程 | SPCC | SPHC |
|---|---|---|
| 塗装(静電・焼付け) | ◎ 平滑面で密着良好 | △ 酸洗いまたはショットブラスト後に処理 |
| 溶融亜鉛めっき(ドブ漬け) | ○ | ○(スケール除去は酸洗いで行うため工程上問題なし) |
| 電気亜鉛めっき | ◎ | △(事前脱スケールが必要) |
| 粉体塗装 | ◎ | △(リン酸処理前の表面調整が重要) |
コストとの兼ね合いで選ぶ判断フロー
SPCCを選ぶ場面
深絞り・複雑絞り成形/塗装・電気めっきの外観品質が重要/薄板(2mm以下)の寸法精度が必要/スケール除去工程を省きたい
単純な曲げ・せん断・穴あけ加工/厚板(3mm以上)で深絞りなし/溶融亜鉛めっきなど酸洗いが前工程に入る/コストを最優先にしたい構造部材
事例:コスト削減でSPHCに切り替えたら割れが出た
状況自動車補機ブラケットの材料をコスト削減のためSPCC(t1.6)からSPHC(t1.6)に変更。プレス成形工程で、絞り部のフランジ端に割れが発生するようになった。
原因ブラケット形状に絞り要素(深さ8mm・R3mm)が含まれていた。SPHCのr値がSPCCより低く、同じ金型条件では板厚方向の変形が追いつかず割れた。
対策絞り深さを6mmに変更し金型Rを5mmに拡大。それでも割れが止まらなかったため、絞り部のみSPCCに戻し、単純曲げ部材はSPHCのままとした。形状設計の段階でr値を確認するフローを追加。
材料選定チェックリスト
- 成形に深絞り要素があるか確認した(あればSPCC)
- 後工程の表面処理がスケールの影響を受けないか確認した
- 板厚2mm超でSPHCを選ぶ場合、溶接前のスケール除去工程を設けた
- 曲げ方向が圧延方向に対して垂直になる場合、曲げR/t比をSPCCより大きく取った
- コスト比較は材料費だけでなく後工程(酸洗い・スケール処理)まで含めて計算した
まとめ
- SPCCは冷延・高精度・r値高い。深絞り・塗装外観品質が必要な薄板プレスに選ぶ
- SPHCは熱延・ミルスケールあり・r値低い。単純曲げ・せん断・構造部材でコスト最適
- 深絞りをSPHCで行うと割れやすい——r値の差が成形性の根本的な違いを生む
- SPHC+溶接は事前のスケール除去が品質確保の前提
- コスト削減でSPHCに切り替える前に、成形形状にr値を必要とする要素がないか確認する

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