SUS316Ti — 記号の読み方
JIS規格では、SUS316TiのTi添加量は炭素量(C%)の5倍以上と規定されています(JIS G 4303)。これはCをTiCとして完全に固定するために必要な最低量から決められています。
SUS316・SUS316L・SUS316Tiの成分比較(JIS規定値)
| 元素 | SUS316 | SUS316L | SUS316Ti | 役割 |
|---|---|---|---|---|
| C(炭素) | ≤0.08 | ≤0.03 | ≤0.08 | 強度(多いと鋭敏化リスク) |
| Si | ≤1.00 | ≤1.00 | ≤1.00 | 耐酸化性・脱酸 |
| Mn | ≤2.00 | ≤2.00 | ≤2.00 | オーステナイト安定化 |
| Cr | 16〜18 | 16〜18 | 16〜18 | 不働態皮膜 |
| Ni | 10〜14 | 10〜14 | 10〜14 | オーステナイト安定化 |
| Mo | 2〜3 | 2〜3 | 2〜3 | 耐孔食・耐塩化物腐食 |
| Ti | — | — | ≥5×C% | 炭素を固定(TiC形成) |
鋭敏化とは何か — まず基礎から理解する
① 通常のステンレス:不働態皮膜で腐食を防ぐ
ステンレス鋼はCrが酸素と反応して表面に薄い不働態皮膜(Cr₂O₃)を形成することで腐食を防いでいます。この皮膜を維持するには、鋼中のCr濃度が約12%以上必要です。
② 鋭敏化:溶接・高温保持でCr濃度が局所的に低下する
ステンレス鋼を450〜850℃の温度域(鋭敏化温度域)に保持すると、CrとCが結合してCr₂₃C₆(クロム炭化物)が粒界に析出します。このとき、周囲のCrが炭化物形成に消費されるため、粒界付近にCr欠乏帯が生じます。Cr濃度が12%を下回った領域は不働態皮膜が維持できず、腐食(特に粒界腐食)が起きやすくなります。
TiCとは何か — Ti安定化の仕組み
TiはCよりもCrより先に炭素と結びつく
Tiは炭素(C)との親和性(結合力)が非常に高く、Crよりも優先的にCと結合してTiC(炭化チタン)を形成します。TiCはCr₂₃C₆とは異なり、粒界ではなく結晶粒の内部に微細分散して析出します。
TiC形成の温度依存性
上図のように、TiCは高温域(1,000℃以上)で安定析出します。一方、Cr₂₃C₆が析出しやすい鋭敏化温度域(450〜850℃)では、CはすでにTiCとして消費されているためCr₂₃C₆の形成が抑制されます。
機械的性質(JIS G 4303)
| 項目 | SUS316Ti | SUS316 | SUS316L |
|---|---|---|---|
| 引張強さ(MPa) | ≥520 | ≥520 | ≥480 |
| 耐力(0.2%)(MPa) | ≥205 | ≥205 | ≥175 |
| 伸び(%) | ≥40 | ≥40 | ≥40 |
| 硬さ(HB) | ≤187 | ≤187 | ≤187 |
| 密度(g/cm³) | 約7.98 | 7.98 | 7.98 |
強度はSUS316とほぼ同等です。TiCの微細分散により高温強度(クリープ強度)はSUS316Lより有利な場合があります。SUS316Lは低C化により耐力がわずかに低下します。
SUS316・SUS316L・SUS316Ti — どう使い分けるか
| 比較項目 | SUS316 | SUS316L | SUS316Ti |
|---|---|---|---|
| 鋭敏化防止の方法 | なし | 低炭素化(C≤0.03) | TiでC固定(TiC) |
| 溶接後の耐食性 | △(リスクあり) | ◎ | ◎ |
| 高温強度 | ◎ | △(低C分やや低い) | ◎(TiCが強化) |
| 繰り返し溶接 | △ | ◎ | ◎ |
| コスト | 標準 | やや高 | やや高 |
| 主な用途温度 | 常温〜中温 | 常温〜中温 | 常温〜高温(800℃程度まで) |
JIS・海外規格対応表
| JIS | ASTM/UNS | EN(欧州) | ISO / GB(中国) |
|---|---|---|---|
| SUS316 | 316 / S31600 | 1.4401 / X5CrNiMo17-12-2 | 06Cr17Ni12Mo2 |
| SUS316L | 316L / S31603 | 1.4404 / X2CrNiMo17-12-2 | 03Cr17Ni13Mo2 |
| SUS316Ti | 316Ti / S31635 | 1.4571 / X6CrNiMoTi17-12-2 | 06Cr17Ni12Mo2Ti |
欧州規格(EN)では1.4571として広く流通しており、化学プラント・石油精製設備の配管・バルブで標準的に採用されています。
SUS316Tiの主な用途
🏭 化学プラント配管
- 塩化物系薬品の輸送管
- 溶接箇所が多い配管系
- 繰り返し加熱・冷却を受ける部位
⚛️ 原子力・エネルギー
- 原子炉冷却配管
- 熱交換器チューブ
- 長期高温使用部品
🛢️ 石油・ガス精製
- 高温腐食性流体の配管
- 熱処理炉の内装部品
- 石油精製塔の内部部品
💊 製薬・食品
- 高温スチーム殺菌ライン
- 溶接を多用する反応槽
- 繰り返しCIP洗浄を受ける設備
🚗 自動車・排気系
- EGR(排気再循環)部品
- 高温排気配管のフランジ
- 溶接部が高温にさらされる部品
🌊 海洋・沿岸設備
- 海水冷却配管の溶接構造体
- 塩化物環境下の高温設備
- 耐食性と高温強度を同時要求
まとめ:SUS316Tiで押さえておきたいこと
- SUS316にTi(チタン)を添加したグレード。Ti ≥ 5×C%(JIS規定)
- Tiは炭素(C)と優先的に結合してTiC(炭化チタン)を粒内に形成する
- CがTiCとして固定されるため、Cr₂₃C₆の粒界析出が起きない → Cr欠乏帯が生じない
- 結果として鋭敏化(粒界腐食)を防止できる
- SUS316Lとの違い:SUS316Lは「Cを減らす」のに対し、SUS316Tiは「CをTiで固定する」アプローチ
- 高温強度に優れ、繰り返し溶接・高温長期使用の用途に適する
- 海外規格ではEN 1.4571として化学・石油・原子力プラントで標準的に使用されている
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