「RoHS対応で鉛フリーはんだに切り替えたら、リフロー後にはんだ不良が続発した」——Sn-Pb共晶はんだから鉛フリーに移行するとき、温度プロファイルを変えずに使おうとするのが典型的な失敗パターンだ。このページではRoHS指令の背景、主要な鉛フリーはんだの組成と特性、そして現場で起きる課題を整理する。
RoHS指令とは何か
RoHS(Restriction of Hazardous Substances)指令はEUが定めた電気・電子機器に含まれる有害物質の使用を制限する規制で、2006年7月に施行された。2011年の改正(RoHS 2)で対象製品・物質が拡大され、現在は10物質が規制対象になっている。
| 規制物質 | 閾値(均質材料中) | 主な用途(規制前) |
|---|---|---|
| 鉛(Pb) | 0.1 wt% | はんだ・表面処理・ガラス着色 |
| 水銀(Hg) | 0.1 wt% | スイッチ・蛍光ランプ |
| カドミウム(Cd) | 0.01 wt% | めっき・顔料 |
| 六価クロム(Cr VI) | 0.1 wt% | 防錆処理 |
| PBB / PBDE(難燃剤) | 0.1 wt% | プラスチック樹脂 |
はんだにおける鉛の規制が特に影響が大きく、電子機器製造業界全体で鉛フリーはんだへの移行が進んだ。
Sn-Pb共晶はんだとの比較
鉛フリー化以前の主流は 63Sn-37Pb(錫63%・鉛37%)の共晶はんだ。共晶組成なので融点が 183℃ 一点に定まり、固体から液体へ瞬時に転移する「シャープな溶融特性」が扱いやすかった。
| 項目 | 63Sn-37Pb(Sn-Pb共晶) | SAC305(Sn-3.0Ag-0.5Cu) | SAC405(Sn-4.0Ag-0.5Cu) |
|---|---|---|---|
| 組成 | Sn 63%, Pb 37% | Sn 96.5%, Ag 3.0%, Cu 0.5% | Sn 95.5%, Ag 4.0%, Cu 0.5% |
| 固相線温度(℃) | 183(共晶) | 217 | 217 |
| 液相線温度(℃) | 183(共晶) | 221 | 220 |
| 融点のシャープさ | ◎(共晶点) | △(217〜221℃ の範囲) | △(217〜220℃ の範囲) |
| 濡れ性 | ◎ | ○ | ○〜◎ |
| 機械的強度 | ○ | ◎(Ag強化) | ◎(Ag強化・SAC305より高め) |
| クリープ耐性 | △ | ○ | ◎ |
| コスト(材料費) | 低 | 中(Ag含有) | 高(Ag多め) |
| RoHS適合 | × | ○ | ○ |
SAC305・SAC405 の融点は 217〜221℃。Sn-Pb共晶の 183℃より約 35℃ 高い。リフロー炉のピーク温度を上げる必要があり、基板・部品の耐熱仕様の見直しが必要になる。
低銀・その他の鉛フリーはんだ
SAC105(Sn-1.0Ag-0.5Cu)
銀含有量を 1.0% に下げたコスト重視の組成。機械的強度はSAC305より低いが、材料費を抑えたい民生品や低コスト機器に使われる。濡れ性はSAC305と同程度。
BiSn系はんだ(Sn-58Bi)
Bi(ビスマス)を添加することで融点を 138℃ まで下げた低温はんだ。熱に弱い部品(有機材料・樹脂封止デバイス)や2回目のリフロー(追いはんだ)に使用される。ただしBiは脆性が高く、Pbと混在すると 96℃ で液化する低融点相が生成されるため、Sn-Pb混在環境では使用禁止。
| 規格名(JIS Z 3282) | 組成例 | 融点範囲(℃) | 特徴・用途 |
|---|---|---|---|
| Sn96.5Ag3Cu0.5 | SAC305 | 217〜221 | 民生〜産業用リフロー・波はんだ |
| Sn95.5Ag4Cu0.5 | SAC405 | 217〜220 | 産業機器・車載(高強度重視) |
| Sn99Ag0.3Cu0.7 | SAC007(低銀) | 216〜227 | コスト重視・濡れ性重視 |
| Sn42Bi58 | BiSn系 | 138 | 低温はんだ・熱弱部品 |
| Sn99Cu1 | Sn-Cu系 | 227 | 銀フリー・波はんだ向け低コスト |
鉛フリー化の課題
ウィスカー(錫ひげ)
純錫または高錫含有率のめっき・はんだから、針状の錫結晶(ウィスカー)が自然成長する現象。長さは数十μmから数mmに達し、隣接する回路に接触してショートを引き起こす。圧縮応力・拡散・結晶粒界の移動が成長の駆動力とされる。Pbを添加するとウィスカー成長が抑制されるため、鉛フリー化でリスクが顕在化した。
ブリッジ・ショート
鉛フリーはんだは Sn-Pb より表面張力が大きく、ファインピッチ部品(0.3mmピッチ以下)のリフロー後にブリッジ(隣接ランド間のはんだ接続)が発生しやすい。温度プロファイルのソーク時間延長とフラックス活性度の最適化で改善する。
はんだクラック(熱疲労)
鉛フリーはんだは Sn-Pb より硬く(ヤング率が高い)、熱サイクルに対するクリープ変形が起きにくい。そのため接合部に応力が蓄積し、部品と基板の熱膨張係数差が大きい場合に熱疲労クラックが発生しやすい。車載用途では−40〜125℃ の熱サイクル試験で接合信頼性を確認する。
錫ペスト(Tin Pest)
錫は約 13℃ 以下で安定な白色錫(β-Sn、体心正方晶)からα錫(立方晶)へ相変態し、体積が約 26% 膨張して灰色の粉末状に崩壊する現象を「錫ペスト」という。Sn-Pb はんだでは Pb の添加でこの変態が抑制されていたが、純錫に近い鉛フリーはんだでは理論上リスクが高まる。実際の製品で問題になるのは −40℃ 以下の極低温環境に長期さらされる場合で、車載・寒冷地用途の設計では注意が必要。
- RoHS指令・地域の環境規制の適用対象製品か確認したか
- リフロー炉のピーク温度を液相線温度 +20〜30℃ 以上に設定したか
- 基板・部品の最高耐熱温度と新プロファイルの整合を確認したか
- ファインピッチ部品(0.3mmピッチ以下)のブリッジリスクを評価したか
- 用途がウィスカーリスクの高い分野(宇宙・医療・車載)でないか確認したか
- −40℃ 以下の極低温環境で長期使用する場合、錫ペストのリスクを評価したか
- Sn-Pbはんだ残存部品との混在工程がある場合、フロー管理を計画したか
- JIS Z 3282 または IPC J-STD-006 に基づいて材料規格を確認したか
まとめ
- RoHS指令により、はんだ中の鉛は 0.1 wt% 以下に制限。Sn-Pb共晶はんだから SAC系への移行が進んだ。
- SAC305(Sn-3.0Ag-0.5Cu)は最も普及している鉛フリーはんだで、融点は 217〜221℃(Sn-Pb比 +35℃)。
- 融点の上昇に合わせたリフロー温度プロファイルの変更が必須。変更しないとコールドジョイントが多発する。
- ウィスカー・ブリッジ・熱疲労クラック・錫ペストが鉛フリー化の主な課題。用途ごとにリスク評価が必要。
- 規格確認は JIS Z 3282(はんだ)と RoHS適合証明書の両方を求める。
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