金属3Dプリントのスパッタをやさしくゼロへ:工程分割で解決するPBF-LB/Mの課題

金属3Dプリントのスパッタをやさしくゼロへ:工程分割で解決するPBF-LB/Mの課題

金属3Dプリンター(PBF-LB/M)は高精度な金属部品を製造できる一方、造形中にレーザ照射部からスパッタと呼ばれる微小な溶融液滴が飛び散る問題があります。このスパッタが造形品質を悪化させる原因になることが知られていますが、完全な抑制はこれまで難しいとされてきました。
今回は、金沢大学・古本達明教授が天田財団の助成を受けて取り組んだ研究をもとに、「レーザ照射を2工程に分割してスパッタを大幅削減する」というアプローチをわかりやすく解説します。

【ご注意】この記事は下記の研究報告書の内容をもとに、一般向けに解説することを目的としています。数値・表現は執筆者の理解に基づくため、正確な情報は必ず原著報告書をご参照ください。専門的な判断や実務への適用は、原著文献および専門家への確認を推奨します。
出典:古本達明「PBF-LB/Mでの工程分割によるスパッタレス造形法」天田財団研究成果報告書 AF-2020211-B2(2020年度一般研究開発助成)

PBF-LB/Mって何?まず基本から整理

PBF-LB/M(Powder Bed Fusion using Laser Beam for Metals)は、金属3Dプリンティングの代表的な方式のひとつです。日本語では粉末床溶融結合法と呼ばれます。

PBF-LB/Mの造形プロセス(概念図) 金属粉末を 薄く均一に敷く ① 粉末敷設 レーザ 選択的に レーザ照射→溶融 ② レーザ照射 溶融→凝固で 1層が完成 ③ 凝固・1層完成 ①②③を繰り返し積層 ④ 積層して完成

金属粉末を薄く(約50µm)敷き詰め、レーザを選択的に照射して溶融・凝固させ、これを何百層も繰り返すことで複雑な3次元形状の金属部品を製造できます。高精度・高密度な造形が可能なことから、航空宇宙・医療・金型など幅広い分野で活用が進んでいます。

スパッタとは何か?なぜ厄介なのか

PBF-LB/Mで最も厄介な問題のひとつがスパッタです。

スパッタとは

レーザ照射部から飛び散る溶融金属の微小液滴。反跳力やマランゴニ対流(温度差による流れ)が原因で生じるとされています(論文より)。

ヒュームとは

溶融池から気化した金属が冷却・凝集した微粒子。スパッタとともに造形品質に悪影響を与えます。

具体的な悪影響

レーザ光路に入るとエネルギが減衰、造形物に付着すると表面が粗化、次の粉末層の厚さが乱れ、欠陥につながります。

論文では、スパッタやヒュームの発生を完全に抑制した先行研究はこれまでなかったと述べられています。ガス流制御や造形条件の最適化など様々なアプローチが試みられてきましたが、根本的な解決には至っていませんでした。

スポット径がスパッタに与える影響

研究では、まず自作したPBF-LB/M装置と高速度カメラ(5000fps)を使って、レーザのスポット径を変えたときの粉末挙動を詳細に観察しました。

スポット径溶融池の様相スパッタの傾向(論文より)
100 µm(小)ビード周辺にドロップレット領域なし溶融池からのみ発生・多い
300 µm溶融池+ドロップレットが混在し始める発生源が溶融池からドロップレットへ移行
800 µm(大)ビードは狭く、周辺にドロップレット散在スパッタ数は少ないが複数の発生源あり
ポイント:スポット径が大きくなるとエネルギ密度が下がり、粉末の急激な相変化が起きにくくなるためスパッタが減少します。しかし大きすぎると溶融が不完全になりビードが形成されなくなります。この「スポット径とエネルギ密度のトレードオフ」が今回の研究の出発点です。

工程分割によるスパッタレス造形の発想

スポット径が大きいとスパッタは少ないが溶融が不十分。スポット径が小さいとビードはできるがスパッタが多い。この問題を解決するために提案されたのが2工程分割法です。

2工程分割造形の概念 【従来法:1工程】 高エネルギ密度 スパッタ多発 → 造形欠陥 工程 分割 【工程分割法:2工程】 第1工程 低エネルギ 大スポット径 ドロップレット形成 スパッタ少 第2工程 高エネルギ 小スポット径 ドロップレット再溶融 → ビード形成
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第一工程(予備焼結):大きなスポット径・低エネルギ密度でレーザを照射し、粉末床全体にドロップレット(小さな溶融球)を均一に形成させます。粉末が急激に溶融しないためスパッタの発生が大幅に抑制されます。
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第二工程(本造形):小さなスポット径・高エネルギ密度でレーザを照射し、第一工程で形成したドロップレットを再溶融・凝固させてビードを形成します。ドロップレットがすでに固着しているため、スパッタが激減します。

実験結果:スパッタを70%削減

自作PBF-LB/M装置を使った実験では、工程分割の効果が顕著に示されました。

論文の報告値(参考):工程分割により発生スパッタ数が約70%削減されました。また、工程分割した場合、発生スパッタの約90%は第一工程で生じており、第二工程での発生は10%程度にとどまったとされています。

商用装置での検討:条件の最適化

次のステップとして、商用PBF-LB/M装置(松浦機械製作所 LUMEX Avance-25)を使い、実用化に向けた条件検討が行われました。使用材料はメディアン径33µmのマルエージング鋼です。

造形様相は4種類に分類される(論文より)

様相意味発生条件
ビード連続的な溶融凝固による理想的な造形物エネルギ密度が十分に高い
不十分ビード不安定な溶融凝固による不完全なビードエネルギ密度がやや不足
ドロップレット粉末が凝集・固着した小球エネルギ密度が低い範囲
飛散プレートに固着せず飛んでいくドロップレットエネルギ密度が極端に低い

論文によれば、ドロップレットがベースプレートに均一に凝着するエネルギ密度は7.0〜9.0 J/mm³の範囲であることが示されています(第一工程の条件設計に重要な指針となります)。

レーザ出力とドロップレットサイズの関係

第一工程でドロップレットを小さく均一に分散させるためには、ドロップレットが形成される条件範囲の中で大きなレーザ出力を選択することが有効とされています。論文ではその理由として、出力が高いほど溶融温度が上がり、温度が高いほど表面張力が低下してドロップレット同士の凝集が抑制されるためと考察されています。

ハッチングピッチによる面造形の最適化

複数のレーザ走査ラインで面を造形するとき、隣接するラインの間隔(ハッチングピッチ)が重要です。論文では以下の傾向が示されています。

ピッチ 250µm

ドロップレットが独立して均一に分散。第一工程として理想的な状態。

ピッチ 200µm以下

隣のレーザ照射熱が重なり、既存のドロップレットが再溶融してビード状に変化してしまう。

第一工程の条件設計指針(論文まとめより):
① エネルギ密度 7.0〜9.0 J/mm³ の範囲でドロップレットを形成
② 大きなレーザ出力でドロップレットを小さく均一に
③ ハッチングピッチを適切に設定(隣接ラインとの熱干渉を避ける)

まとめ:PBF-LB/Mのスパッタ問題で押さえておきたいこと

この記事のポイント

  • PBF-LB/Mのスパッタは造形欠陥の主要因で、従来の対策では完全抑制が困難だった
  • 工程分割(2ステップ)という新発想により、スパッタを約70%削減できることが示された(論文報告値)
  • 第一工程(大スポット・低エネルギ)でドロップレットを先に作り、第二工程(小スポット・高エネルギ)でビードに変換する
  • 第一工程のエネルギ密度は7.0〜9.0 J/mm³、レーザ出力は大きめ、ハッチングピッチは適正値の選択が重要
  • スパッタの90%は第一工程で発生するが、粉末の急激な相変化を抑えているため全体の発生量は大幅に少ない
【再掲・免責事項】本記事は天田財団研究成果報告書の内容を一般向けに解説するものです。記載内容の正確性については最善を尽くしていますが、執筆者の理解に基づく解説であり、誤りが含まれる可能性があります。専門的な判断・実務への適用は必ず原著報告書をご確認ください

参考文献・関連リンク

📄 原著報告書(本記事の出典)
  • 古本達明「PBF-LB/Mでの工程分割によるスパッタレス造形法」
    公益財団法人 天田財団 研究成果報告書 AF-2020211-B2(2020年度 一般研究開発助成)
    ▶ 報告書PDF(天田財団)
🔬 論文内で引用されている主要文献
  • Khairallah et al. “Laser powder-bed fusion additive manufacturing…” Acta Materialia, 108 (2016), 36-45.(スパッタ発生メカニズム)
  • Ladewig et al. “Influence of the shielding gas flow…” Additive Manufacturing, 10 (2016), 1-9.(ヒューム挙動)
  • Furumoto et al. “Laser direct metal deposition of maraging steel…” CIRP Annals, 67-1 (2018), 253-256.(著者の先行研究)
🔗 関連参考リンク

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