金属3Dプリンター(PBF-LB/M)は高精度な金属部品を製造できる一方、造形中にレーザ照射部からスパッタと呼ばれる微小な溶融液滴が飛び散る問題があります。このスパッタが造形品質を悪化させる原因になることが知られていますが、完全な抑制はこれまで難しいとされてきました。今回は、金沢大学・古本達明教授が天田財団の助成を受けて取り組んだ研究をもとに、「レーザ照射を2工程に分割してスパッタを大幅削減する」というアプローチをわかりやすく解説します。
出典:古本達明「PBF-LB/Mでの工程分割によるスパッタレス造形法」天田財団研究成果報告書 AF-2020211-B2(2020年度一般研究開発助成)
PBF-LB/Mって何?まず基本から整理
スパッタとは何か?なぜ厄介なのか
レーザ照射部から飛び散る溶融金属の微小液滴。反跳力やマランゴニ対流(温度差による流れ)が原因で生じるとされています(論文より)。
溶融池から気化した金属が冷却・凝集した微粒子。スパッタとともに造形品質に悪影響を与えます。
レーザ光路に入るとエネルギが減衰、造形物に付着すると表面が粗化、次の粉末層の厚さが乱れ、欠陥につながります。
スポット径がスパッタに与える影響
| スポット径 | 溶融池の様相 | スパッタの傾向(論文より) |
|---|---|---|
| 100 µm(小) | ビード周辺にドロップレット領域なし | 溶融池からのみ発生・多い |
| 300 µm | 溶融池+ドロップレットが混在し始める | 発生源が溶融池からドロップレットへ移行 |
| 800 µm(大) | ビードは狭く、周辺にドロップレット散在 | スパッタ数は少ないが複数の発生源あり |
工程分割によるスパッタレス造形の発想
第一工程(予備焼結)
大きなスポット径・低エネルギ密度でレーザを照射し、粉末床全体にドロップレット(小さな溶融球)を均一に形成させます。粉末が急激に溶融しないためスパッタの発生が大幅に抑制されます。
第二工程(本造形)
小さなスポット径・高エネルギ密度でレーザを照射し、第一工程で形成したドロップレットを再溶融・凝固させてビードを形成します。ドロップレットがすでに固着しているため、スパッタが激減します。
実験結果:スパッタを70%削減
商用装置での検討:条件の最適化
| 様相 | 意味 | 発生条件 |
|---|---|---|
| ビード | 連続的な溶融凝固による理想的な造形物 | エネルギ密度が十分に高い |
| 不十分ビード | 不安定な溶融凝固による不完全なビード | エネルギ密度がやや不足 |
| ドロップレット | 粉末が凝集・固着した小球 | エネルギ密度が低い範囲 |
| 飛散 | プレートに固着せず飛んでいくドロップレット | エネルギ密度が極端に低い |
論文によれば、ドロップレットがベースプレートに均一に凝着するエネルギ密度は7.0〜9.0 J/mm³の範囲であることが示されています(第一工程の条件設計に重要な指針となります)。
① エネルギ密度 7.0〜9.0 J/mm³ の範囲でドロップレットを形成
② 大きなレーザ出力でドロップレットを小さく均一に
③ ハッチングピッチを適切に設定(隣接ラインとの熱干渉を避ける)
まとめ:PBF-LB/Mのスパッタ問題で押さえておきたいこと
- PBF-LB/Mのスパッタは造形欠陥の主要因で、従来の対策では完全抑制が困難だった。
- 工程分割(2ステップ)という新発想により、スパッタを約70%削減できることが示された(論文報告値)。
- 第一工程(大スポット・低エネルギ)でドロップレットを先に作り、第二工程(小スポット・高エネルギ)でビードに変換する。
- 第一工程のエネルギ密度は7.0〜9.0 J/mm³、レーザ出力は大きめ、ハッチングピッチは適正値の選択が重要。
- スパッタの90%は第一工程で発生するが、粉末の急激な相変化を抑えているため全体の発生量は大幅に少ない。
- 古本達明「PBF-LB/Mでの工程分割によるスパッタレス造形法」公益財団法人 天田財団 研究成果報告書 AF-2020211-B2(2020年度 一般研究開発助成)
▶ 報告書PDF(天田財団)

