焼戻し脆性とは? なぜ起こるのか・どう防ぐかをやさしく解説

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焼戻し脆性とは? なぜ起こるのか・どう防ぐかをやさしく解説

「SCM440を焼入れ・焼戻ししたのに衝撃値が思ったより低かった」——焼戻し温度の選択を間違えると「焼戻し脆性」という落とし穴にはまることがあります。この記事で2種類の焼戻し脆性のメカニズムと防止法をやさしく解説します。

焼戻し脆性の2種類

種類温度域別名主な原因可逆性
低温焼戻し脆性250〜350°C第1種焼戻し脆性マルテンサイト分解時の炭化物粒界析出不可逆(回避不能)
高温焼戻し脆性450〜550°C第2種焼戻し脆性・ニッケルクロム脆性P・Sb・Sn・Asなど不純物の粒界偏析可逆(急冷で回避可)
実務で問題になるのは高温焼戻し脆性です: 低温焼戻し脆性は250〜350°Cの焼戻しを避けることで防げます(200°C以下または400°C以上で焼戻し)。高温焼戻し脆性は450〜550°C帯での長時間保持またはゆっくり冷却した際に現れ、SNCM材(Ni-Cr合金鋼)で特に問題になります。

高温焼戻し脆性のメカニズム

P(リン)・Sb(アンチモン)・Sn(スズ)・As(砒素)などの微量不純物元素が、450〜550°Cの加熱中に粒界(結晶粒の境界)に偏析(濃集)します。粒界強度が低下し、衝撃破壊が粒界沿いに起きやすくなります(粒界脆性破壊)。

焼戻し温度と靱性の関係

防止対策

対策詳細効果
焼戻し後急冷高温焼戻し後に油冷または水冷偏析する時間を与えない(最も有効)
Mo添加鋼を使用SCM440・SNCM439のMo添加MoがP・Sbの粒界偏析を抑制
低温焼戻し脆性温度域を避ける200°C以下または400°C以上で焼戻し低温脆性の回避
鋼の純度管理P・Sbを低く抑えた高純度鋼の選択偏析元素そのものを減らす

高温焼戻し脆性を起こしやすい鋼種・条件

鋼種脆化感受性注意事項
Ni-Cr鋼(SNC材)高い焼戻し後は必ず急冷。Mo添加品(SNCM)に変更を検討
SNCM材(Ni-Cr-Mo鋼)中程度Moの効果で抑制されるが、急冷を励行
SCM440低いMoの抑制効果で比較的安全
S45C低い合金元素が少なく粒界偏析元素も少ない

用途別カード

大型クランクシャフト・シャフト

高温焼戻し(550〜650°C)後に急冷を実施。SNCM材を使用し脆性リスクを最小化します。

高強度ボルト(SCM440)

Mo添加のSCM440を選ぶことで焼戻し脆性リスクを下げられます。焼戻し後は急冷推奨。

板ばね・コイルばね

250〜350°C帯を避けた焼戻し設定(400〜550°C)で靱性を確保します。

まとめ:焼戻し脆性で押さえておきたいこと

  • 焼戻し脆性には低温(250〜350°C)高温(450〜550°C)の2種類があります。
  • 高温焼戻し脆性はNi-Cr合金鋼で特に問題で、焼戻し後急冷が最も有効な対策です。
  • Mo添加(SCM440・SNCM439)はP・Sbの粒界偏析を抑制し、高温焼戻し脆性を軽減します。
  • 「250〜350°Cの焼戻し禁止」「高温焼戻し後は急冷」が実務の基本ルールです。

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