真鍮(黄銅)をやさしく解説:亜鉛量でこんなに変わる銅合金の基本

銅合金

真鍮(黄銅)をやさしく解説:亜鉛量でこんなに変わる銅合金の基本

真鍮(しんちゅう)は、銅と亜鉛を合わせた合金で、「黄銅」とも呼ばれます。美しい金色の光沢と優れた加工性を持ち、蛇口・バルブ・楽器・アクセサリーなど、私たちの身のまわりに広く使われています。この記事では、真鍮の種類や特性、代表的なJIS規格グレードの使い分けについてわかりやすく解説します。

① 真鍮の記号の読み方:「C」+4桁の番号

日本では、銅および銅合金の材料記号を「CXXXX(C+4桁)」で表します(JIS H 3100・JIS H 3250など)。真鍮(黄銅)はその中の「C2000番台〜C3000番台」に分類されます。

真鍮の材料記号の読み方(例:C3604) C 3 6 0 4 銅合金(Copper alloy) 銅系材料の共通記号 分類番号 3=快削黄銅系(鉛入り) 合金組成コード Cu:57〜61%・Pb添加 種別番号 快削黄銅2種

末尾に「P(板)」「R(条)」「BD(引抜丸棒)」「BE(押出丸棒)」などの形状記号が付く場合があります。たとえば「C2801P」の「P」は板材を意味します。

② 代表的なJISグレードと特徴

真鍮には多くのグレードがありますが、特によく使われるのは以下の6種類です。

JIS記号 通称 Cu(銅) Zn(亜鉛) 特記成分 主な特徴
C2600 七三黄銅(1種) 68.5〜71.5% 残部(約30%) 深絞り・プレス加工性が最高。ヘラ絞り用
C2680 七三黄銅(2A種) 64.0〜68.0% 残部 板材の主力グレード。薄板・条で幅広く流通
C2801 六四黄銅(真鍮・3種) 59.0〜63.0% 残部(約40%) 強度・展延性・メッキ性に優れる。板材の定番
C3602 快削黄銅1種 59.0〜63.0% 残部 Pb:1.8〜3.7% 鉛添加で切削性向上。冷間鍛造性も比較的良好
C3604 快削黄銅2種 57.0〜61.0% 残部 Pb:1.8〜3.7% 切削性が最も高い。自動旋盤加工の標準材
C3771 鍛造用黄銅棒2種 57.0〜61.0% 残部 Pb:1.0〜2.5% 熱間鍛造に適する。バルブ・継手に多用

※成分はJIS H 3100・JIS H 3250より。数値は代表的参考値です。

③ 真鍮の性質を決める「α相とβ相」

真鍮の特性は、亜鉛の含有量によって大きく変わります。その鍵となるのが「α相」と「β相」という組織です。

ポイント:亜鉛が約35%以下→α単相(延性に優れる)、約40%以上→α+β二相(強度が上がるが延性は低下)。この比率が、加工性と強度のバランスを決定します。
亜鉛量と相組織・特性の関係 Zn% 10% 20% 30% 40% 50% α相(単相) 延性・冷間加工性に優れる α+β相(二相) 強度↑ 熱間加工性↑ 〜35% Zn C2600 Zn≈30% C2680 Zn≈35% C2801 Zn≈40% C3604 Zn≈39%+Pb ← 亜鉛が多いほど強度・熱間加工性は上がるが、冷間での延性は低下する →

C2600・C2680はα単相域に属するため、プレスや深絞りなどの冷間塑性加工が得意です。一方、C2801・C3604はα+β二相域であり、強度は高くなりますが冷間での塑性変形能はやや下がります。C3604に鉛を加えているのは、β相が多くなって延性が落ちた部分を「切削性の高さ」で補う設計思想だという点が興味深かったです。

④ よく比較される材料との使い分け

真鍮(C3604) リン青銅(C5191) アルミ青銅(C6161)
特性 真鍮(C3604) リン青銅(C5191) アルミ青銅(C6161) 純銅(C1100)
切削加工性 ◎ 最高レベル
冷間塑性加工性 △ 鉛入りで低 ◎ バネ性あり
耐食性(一般大気) ◎ 海水にも強い
強度(引張強さ) ○ 340〜420 MPa ○ 380〜500 MPa ◎ 600 MPa超も △ 200〜250 MPa
コスト・入手性 ◎ 安価で豊富 △ やや高価
電気伝導性 ○ 約26% IACS △ 約15% IACS △ 約8% IACS ◎ 100% IACS

◎優れる ○良い △劣る。数値は代表的参考値です。

⚠️ 真鍮の注意点(脱亜鉛腐食・応力腐食割れ):
真鍮は、酸性水・塩水・アンモニア雰囲気下では「脱亜鉛腐食(亜鉛が溶け出して赤みを帯びた銅だけが残る現象)」が起きることがあります。また、残留応力がある状態でアンモニア環境にさらされると「応力腐食割れ(時期割れ)」のリスクもあります。水回り部品や継手には脱亜鉛対策を施した合金(C3771・C3531など)を選ぶか、ろう付け後に200〜240℃での応力除去焼なましを検討しましょう。

⑤ JIS・海外規格の対応関係

JIS(日本) ASTM/UNS(米国) EN/CW(欧州) GB(中国) ISO 特徴
C2600 C26000(UNS)
Cartridge Brass
CW508L(CuZn30) H70 CuZn30 七三黄銅(Zn 30%)
C2680 C26800(UNS) CW505L(CuZn33) H65 CuZn35 汎用板材グレード
C2801 C28000(UNS)
Muntz Metal相当
CW508L相当(CuZn40) H62 CuZn40 六四黄銅(Zn 40%)
C3604 C36000(UNS)
Free-Cutting Brass
CW614N(CuZn39Pb3) HPb59-1 CuZn38Pb2相当 鉛入り快削黄銅
C3771 C37700(UNS)
Forging Brass
CW617N(CuZn40Pb2) HPb59-3 CuZn40Pb2 鍛造用黄銅

※各規格の成分範囲が完全一致しない場合があります。「〜相当」は組成が近いことを示します。

⑥ 用途ごとのグレード選定

🔩 切削部品・精密加工

C3604 / C3602
ねじ・バルブ・精密機器部品に。C3604は自動旋盤での大量生産向き。C3602は軽度の塑性加工(かしめ)も可能。

💧 水回り・バルブ・継手

C3771
熱間鍛造で複雑形状を成形できる鍛造専用グレード。蛇口・ガス継手・バルブ本体など。脱亜鉛対策材との組み合わせも検討。

🏗️ 板金・プレス・深絞り

C2600 / C2680
冷間塑性加工性が最高クラス。建築金物・装飾板・ネームプレートのプレス加工に。C2600はヘラ絞り用途にも。

🎺 楽器(管楽器)

C2600 / C2680 / C2700
トランペット・トロンボーン・サクソフォンのベルや管体に。亜鉛量の違いで音色・吹奏感が変わるため、部位ごとに使い分けるメーカーもある。

⚡ 電気・電子部品

C2801 / C2680
配線器具の端子・コネクタ本体などに。メッキ性(ニッケルめっき・金めっき)に優れる。電気伝導性は純銅には劣るが実用上十分。

🌿 環境対応(鉛フリー)

C6801 / C6931(エコブラス)
C3604の代替として鉛をビスマス(Bi)やセレン(Se)で代替した鉛フリー快削黄銅。RoHS・飲料水規制対応が必要な部品に。

⑦ 真鍮をやさしく解説:まとめ

真鍮(黄銅)は「銅+亜鉛」の合金で、亜鉛量によってα単相(延性重視)とα+β二相(強度・加工性重視)に分かれます。用途に合わせたグレード選定がとても重要です。


プレス・深絞り→ C2600 / C2680(冷間加工性最高)
一般板材・メッキ用途→ C2801(六四黄銅の標準材)
切削・精密加工→ C3604(快削黄銅の王道)
熱間鍛造・バルブ→ C3771(鍛造専用)
鉛規制対応→ C6801系(エコブラス)


また、脱亜鉛腐食や応力腐食割れに注意が必要な環境では、グレード選定と防食対策が品質・信頼性を大きく左右します。真鍮は安価で入手しやすい一方、「どのグレードを選ぶか」「どんな環境で使うか」を整理することが実務では最初の一歩になります。

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