NAK80について解説します:「焼入れ不要」プリハードン鋼がプラスチック型の定番になった理由

NAK80について解説します:「焼入れ不要」プリハードン鋼がプラスチック型の定番になった理由

プラスチック射出成形型の材料として広く使われるNAK80(大同特殊鋼)。「プリハードン鋼」という区分に属し、焼入れ処理なしに高硬度が得られる点が最大の特徴です。なぜそれが型づくりのコストと精度に大きな差をもたらすのか、解説します。

① NAK80の記号・ブランドを読み解く

NAK80 ブランド名の構成(大同特殊鋼 登録商標) NAK 80 大同特殊鋼ブランド名 Ni-Al-Cu系析出硬化型鋼 シリーズ番号80 HRC38〜42でプリハードン出荷

NAK80は大同特殊鋼の登録商標プリハードン鋼です。JIS規格番号ではなくブランド名です。Ni・Al・Cu系の析出硬化型鋼で、メーカーがHRC 38〜42に調整した状態で出荷します。「プリハードン(Pre-hardened)=あらかじめ硬くしてある」という意味です。

② プリハードン鋼のグレード比較

鋼種出荷硬度鏡面研磨性特徴主用途
NAK80HRC 38〜42◎◎清浄度高・EDM良好精密プラスチック型・光学部品型
P20系HRC 28〜34溶接補修しやすい汎用プラスチック型
S55C調質HRC 20前後安価金型ホルダー・ベース
SKD61(焼入れ後)HRC 48〜52熱間型向け高硬度ダイカスト型

③ 核心概念:「焼入れ不要」がなぜこれほど価値があるのか

💡 ポイント:通常の工具鋼は「機械加工→焼入れ・焼戻し→仕上げ加工(研削・EDM・磨き)」という流れが必要です。焼入れ後に寸法変化・歪みが発生するため、仕上げ加工が欠かせません。NAK80はすでにHRC 38〜42で出荷されるため、「機械加工→仕上げ磨き」だけで型が完成します。特に1m超の大型型では、焼入れ炉の確保も不要となり、リードタイムとコストを大幅に削減できます。
⚠️ 注意:NAK80の硬度はHRC 40止まり。SKD11(HRC 60〜)のような高硬度は得られない。高荷重プレス・激しい摩耗が予想される型刃には不向き。「プラスチック型の鏡面部・構造部品」に用途を絞って使うことが重要。

④ 他材料との使い分け(レーダーチャート)

NAK80 P20系 SKD11(焼入れ品)
特性NAK80P20系SKD11
鏡面研磨性◎◎
EDM加工性
焼入れ変形なし(不要)なし(不要)あり(要管理)
最大硬度HRC 42HRC 34HRC 62
溶接補修性
コスト

⑤ JIS・海外規格の対応

規格・メーカー鋼種名備考
大同特殊鋼(日本)NAK80登録商標品。JIS規格外
AISI(米国)P21に近い系統完全相当品なし
ASSAB(スウェーデン)STAVAX ESR / POLMAX用途は類似。成分は異なる
Böhler(オーストリア)M300 / M333プリハードン析出硬化系
ISO析出硬化型相当JIS規格外のため対応なし

⑥ 主な用途

🏭 精密プラスチック射出成形型

家電・自動車内装・日用品の樹脂型。鏡面研磨性が高く光沢面が必要な型に最適。

💎 光学部品用型

レンズ・光学フィルムなど超鏡面が必要な型。清浄な組織で均一な鏡面を実現。

🎨 シボ加工型

テクスチャー加工を施した型。均質な組織なのでシボが均一に仕上がる。

⚙️ プレス型のホルダー・バッキング

焼入れ不要で大型も対応しやすく、精密摺動面の研磨仕上げにも対応。

⑦ まとめ

NAK80は「焼入れ不要(プリハードン)」という設計思想を持つ析出硬化型鋼です。大型プラスチック型では焼入れによるコスト・変形・リードタイムの問題が深刻になりますが、NAK80はこれらをすべて解消します。Ni-Al-Cu系の析出硬化によって均一な硬度と優れた鏡面研磨性を実現しており、精密プラスチック型・光学部品型の材料として最適です。HRC 40以上の高硬度が必要な箇所はSKD11など別材料と組み合わせて設計してください。

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