たすいちな人 たすいちな人

TASUICHI-BITO Vol.3 (前編) 懐かしい記憶がふと蘇る。そんなお菓子が作れたら。 TASUICHI-BITO Vol.3 (前編) 懐かしい記憶がふと蘇る。そんなお菓子が作れたら。

ふわりと匂いたつハーブやスパイスの香り、印象深く心地よい食感。〈foodremedies〉のお菓子には、人の心をほぐす健やかな力がある。「お菓子は食事と違って必ず食べなきゃいけないものじゃない。だからこそ、食べるならほんの一口でも美味しく感じられるものを」生きるのに必須ではないけれども、あると人生が豊かになる。そんな素敵な“たすいち”を、長田佳子さんは作り続けています。

香りや食感は遠い記憶を呼び起こす大切な鍵 香りや食感は遠い記憶を呼び起こす大切な鍵

アイシングのかかったレモンケーキをぱくりと頬張ると、しっとり優しい口あたり。そして爽やかなレモンの香りが、ふわりと立ちのぼります。その香りは、どこか遠い記憶を呼び覚ますよう。こんがり焼きあがったローズマリークッキーやハーブソルトクラッカーも食べる人の記憶に印象深く残る味わいです。「香りや食感は、私が作るお菓子にとって重要な要素。世の中にお菓子はたくさんあるけれど、そんな中で食べる人の思い出に触れるような存在になれらいいなと思います」例えば、子どもの頃におばあちゃんに作ってもらったおやつのような、学校の帰り道で摘んだ花の蜜のような懐かしさ。そんな記憶に結びつくからこそ、私たちに深い満足感をもたらすのでしょう。「お菓子は食事と違って、毎日食べなきゃならないものではありません。だからこそ、せっかく食べるなら心の底からおいしく感じられるものにしたいんです」生きるために必須じゃないけれど、あると幸せになれるもの。それが長田さんのお菓子なのです

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作るお菓子そのまま、自然体の長田さん。ゆったりとシンプルなリネンやコットンの仕事着が似合う。

自分の手で、手間と時間を惜しまず。ほんのひと口でも満足度の高いお菓子を。 自分の手で、手間と時間を惜しまず。ほんのひと口でも満足度の高いお菓子を。

長田さんが〈foodremedies〉を立ち上げたのは3年前。それまで携わっていた〈YAECA〉のフードプロジェクト〈PLAINE BAKERY〉がひと段落ついた頃でした。長田さんが1人で引き受けていた開発と製造を後任スタッフに任せての卒業でした。「少し体を休めながら、今までできなかったことに挑戦しながら、これからのことを考えようかなと。そこで、まずフルーツを勉強するためにパフェ屋さんのアルバイトを探し始めたんです」そんな時、長田さんに転機が訪れます。きっかけは先輩の料理家のひと言でした。「どうしてもここじゃなきゃ!という店がないなら、自分でやった方がいいんじゃない?と言われて。衝撃でした。”料理家”というのは特別な存在だと思ってい明日し、先生について修行した経験もありませんでしたから」それでも、きっと何かできることがあると思い切ってスタート。「基本は自分が納得できるお菓子を自分の手で作ること。きちんと手をかけて作る。それが〈foodremedies〉なんです」

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雑誌やWEB連載のレシピ開発も長田さんの大切な仕事。この日はお茶に合うマンゴーと寒天のお菓子を試作中。

どんな人が、どんな思いで育てているか。生産者の思いがこもった、よい素材に力をもらう。 どんな人が、どんな思いで育てているか。生産者の思いがこもった、よい素材に力をもらう。

長田さんは今まで様々な菓子作りの現場を見てきました。その幾つかは反面教師として大切なことを教えれくれたと言います。「最初は疑いもなく、卸業者から大量に仕入れた材料を使って流れ作業で大量にお菓子を作っていました。でも、そのお菓子を食べても満足できないし幸せも感じない。私の食べたいお菓子って何だろうって考えた時、素材を大切にすることに行き当たりました」そうして素材に目が向くようになると、不思議と信頼に足る生産者との縁が繋がるようになったと長田さん。「喫茶イベントにお客様で来てくださったり、私が参加したイベントにゲストでいらしていたり。そんな自然な出会いの中で、作り手としての思いをお聞きしたり、実際に農園を見せていただいたりする機会が増えました。そうしてお話を伺うと、ゆめゆめおろそかには扱えません。お菓子作りにも良い緊張感が生まれます。余すことなく生かしたい!と思いますね」そうした積み重ねの中で「たくさんじゃなくていい。よいものをで本当に満足感のあるお菓子を作りたい」という思いが、今も長田さんの中でどんどん膨らんでいっています。

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明治神宮にほど近い新たなアトリエで。キッチンにはこれから長田さんの使い勝手のよいものが集まってくる。
  • 長田佳子さんの写真
長田佳子さん

おさだかこ/フランス菓子店やカフェでの修業を経て、ファッションブランド〈YAECA〉のフード部門〈PLAINE BAKERY〉で開発・製造を担当。2015年に菓子研究家として独立し、〈foodremedies〉を立ち上げる。お菓子教室やカフェイベントなど開催するかたわら、雑誌などにレシピを提供。著書に『foodremediesのお菓子』など。〈foodremedies〉のお菓子は、外苑前「doinel(ドワネル)」で月1回、ギフト仕様で取り扱い(内容は毎月変更)。

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